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コラム・特集

スポーツを通じて新たな観光市場開拓を ―さいたまスポーツコミッション設立―

スポーツを取り巻く環境が変わるなかで

スポーツを通じて新たな観光市場開拓を ―さいたまスポーツコミッション設立―

会場はほぼ満員。320人の来場があり、関心の高さをうかがわせた

スポーツ振興を国家戦略として位置付けた「スポーツ基本法」が6月に成立。文科省主導で「スポーツ庁」の創設も検討されるなど、昨今、スポーツを取り巻く環境が徐々に変わってきた。

 

これらと並行し、まちおこしのコンテンツのひとつとしてスポーツイベントに着目する自治体も増えてきた。

電通と早稲田大学による共同調査「地方自治体におけるスポーツ施策のイノベーション調査」(都道府県、政令指定都市、中核市、特例市など全国146の自治体のスポーツ担当部門、観光担当部門が対象)によれば、スポーツによる地域活性化に対し、政令指定都市では9割、全体では7割近くが「非常に関心がある」と答えている。「東京マラソン」の大成功をきっかけに、今年は大阪、神戸、来年は京都、名古屋の各都市で市民参加型のマラソン大会が開かれるのはスポーツに向ける自治体の熱いまなざしのひとつの例だろう。

そんななか、政令指定都市のひとつであるさいたま市が10月3日(月)に「さいたまスポーツコミッション」という組織を立ち上げた。これは、さいたま市にスポーツイベントを誘致し、地域活性化につなげようというねらいでスタートしたもので、さいたま市、市内のスポーツ団体、観光業、学識経験者、メディアといった顔ぶれで構成され、さいたま観光コンベンションビューロー内に事務局を置く。

映画のロケ隊を誘致し、ロケ場所の提供、エキストラの手配、行政との橋渡しを行なういっぽう、ロケ隊滞在時の経済的な恩恵や、映画封切り後のロケ地の観光地化を図る「フィルムコミッション」があるが、イメージとしてはそれに近いものとみてよさそうだ。

会長には清水勇人さいたま市長が就任した。設立日の10月3日(月)は、設立総会後にシンポジウムを開催。清水会長は次のようにあいさつをした。

「スポーツコミッションとはスポーツイベントの誘致と開催支援を通じて観光、あるいは交流人口の拡大を図って地域経済を活性化していこうという組織です。まだ日本では聞きなれないかもしれませんが、すでに先進国であるアメリカでは、こうした組織が500以上あって、それぞれの都市でイベントの誘致や開催を競いあっています。日本でもスポーツ基本法の制定、スポーツ庁設立の検討など、スポーツ振興を国家戦略として位置付けていこうという動きがあるなか、スポーツコミッションはスポーツと観光を結びつける『スポーツツーリズム』という切り口を持っています。スポーツを地域の振興策に取り入れている自治体はこれまでもたくさんありましたが、さいたまスポーツコミッションは、スポーツによるシティセールス、あるいは関連マーケティング活動を専門に展開する組織として、国内では初の試みとなります。今後はスポーツによる地域経済活性化のエンジンとして、プロ・アマを問わず各種の団体や主催者にプロモーション活動を積極的に行なっていきたいと考えています」

 

充実したスポーツインフラを活かせるか―さいたま市の挑戦

シンポジウムは清水会長のあいさつの後、設立準備委員会の原田宗彦委員長(早稲田大学スポーツ科学学術院)が、設立経緯と計画概要を発表。そのなかで、さいたまスポーツコミッションの役割を次のように説明した。

「中央の競技団体や主催者など、権利を持っているところと連絡を密にとりながら様々なスポーツイベントを誘致することでさいたま市への来訪者、スポーツイベントの参加者、観戦者の獲得をめざすわけですが、そこに観光サービスを提供することで、観光関連事業者との連携も生まれます。さらにこの組織にはコーディネート機能もあって、昨今スポーツボランティアの人気が高まっていますが、そうした人々をコーディネートできるボランティア組織との連携も深めながら支援サービスを展開することもできます。やがてさいたま市への経済効果、観光リピーターの獲得、まちへのイメージが変わって”スポーツのまち・さいたま”という印象を持ってもらえるという効果が期待できるでしょう」

スポーツイベントを誘致するといっても受け皿がなくては難しいが、もともとさいたま市はスポーツインフラが大変充実している。2002年のW杯をはじめ数々の国際試合が行なわれてきた埼玉スタジアム2002、NACK5スタジアム大宮、駒場スタジアムと3つのJ1規格のスタジアムがあり、屋内イベント施設として世界トップクラスともいわれるさいたまスーパーアリーナ、最大約3,000席の観覧席を備えたさいたま市記念総合体育館をはじめ8館の体育館(武道館)、荒川沿いにある運動公園など施設には事欠かない。また、市内全体が比較的フラットなため、一般参加のマラソン大会、サイクリング大会、ウォーキング大会などにも適している。そうしたインフラを活用しながら、観光にも来てもらえればいうことはない。

こうした素地を活かしつつ、具体的には会場の確保・調整、財政支援、ボランティアによる人的支援、行政機関への調整・関連企業の斡旋、写真の貸与・提供、広報・PR支援といったことを柱として活動を続けていくという。もちろん、イベント開催の話しが来るのを待っているだけではなく、団体側から積極的に営業もしていく。

まだスタートしたばかりだが、冒頭にも記したとおり、スポーツイベントについての自治体の関心度は非常に高い。さいたまスポーツコミッションの取り組みを自分たちの自治体ではどのようにアレンジできるのかという視点で見る自治体も多いだろう。

また、競技ごとに別々で動くことが多いスポーツの世界にあって、こうした”超党派”の組織ができることで、別団体同士のコラボレートや相乗効果も期待できる。

スポーツの持つ力を使いながらもそれだけにとどまらず、観光、シティセールス、まちのブランディングといった広がりが見える点で、非常に期待できる取り組みではないだろうか。

(2011年10月3日(月) 鈴木隆文)

<さいたまスポーツコミッション概要>
名称 さいたまスポーツコミッション
SAITAMA SPORT COMMISSION(略称:SSC)
スポーツを通じて新たな観光市場開拓を ―さいたまスポーツコミッション設立―
設立年月日 2011年10月3日
事務局所在地 〒330-0853さいたま市大宮区錦町682-2JACK大宮3F
社団法人さいたま観光コンベンションビューロー
(スポーツコミッション事業担当)
連絡先 TEL.048-647-8338/FAX.048-647-0116
公式サイト http://saitamasc.jp/

 

<さいたま市のスポーツポテンシャル>

「スポーツのまちづくり」の推進

・2010年4月 さいたま市スポーツまちづくり条例制定

・2011年7月 さいたま市スポーツ振興まちづくり計画策定

 

大型スポーツイベントの開催実績

・2002年 FIFAワールドカップ

・2006年 FIBAバスケットボール世界選手権 など

 

大規模スポーツ施設の集積

・さいたまスーパーアリーナ

・埼玉スタジアム2002

・NACK5スタジアム大宮

・駒場スタジアム など

 

スポーツチームの連携組織

・プライドリームス埼玉

埼玉県を代表するスポーツチームによって2010年3月に設立された団体

 

<スポーツコミッションの戦略方針>

①特定競技やカテゴリー(種別)の聖地(メッカ)づくり

②ターゲットを明確にしたイベントや大会の誘致活動

③自然・都市環境を活かしたエコロジカル(非施設利用型)スポーツの振興

 

役員一覧

名誉会長 上田 清司 埼玉県知事
会長 清水 勇人 さいたま市長
副会長 原田 宗彦 早稲田大学スポーツ科学学術院教授
中山 欽哉 さいたま市議会議長
委員 武笠 光明 さいたま市議会スポーツ振興議員連盟会長
松永  功 さいたま商工会議所会頭
北  清治 (財)さいたま市体育協会会長
橋本 光夫 (株)三菱自動車フットボールクラブ代表取締役社長
鈴木  茂 エヌ・ティ・ティ・スポーツコミュニティ(株)代表取締役社長
畑野 祐一 日本放送協会さいたま放送局長
平本 一郎 (株)テレビ埼玉代表取締役社長
益子  弘 (株)FM NACK5代表取締役社長
小川 秀樹 (株)埼玉新聞社代表取締役社長
坪田 知広 観光庁スポーツ観光推進室長
岩﨑 康夫 埼玉県都市整備部長
森田  治 さいたま市経済局長
清水  猛 (社)さいたま観光コンベンションビューロー会長