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【インタビュー】渋谷の街を歩いて散策 地元目線のスポット巡りで、街の記憶にアクセス 〜“しぶやコンシェルジュ”の活動〜 1

安全・安心、歩いて楽しい街、来るたびに発見がある街など、渋谷の発展につとめ、渋谷の観光まちづくりを目指す、一般社団法人“しぶやコンシェルジュ”(通称しぶコン)。渋谷の街の奥深さをもっともっと知ってもらいたいと、案内人として、ガイド付きの街歩きイベントを企画している。

2011年6月25日には、第3回目のガイドツアーが開催された。渋谷の繁華街を抜け、観世能楽堂、戸栗美術館、盲人のための美術館ギャラリーTOM、松濤美術館など、芸術関係の建築物を巡り、都知事公舎や邸宅の建ち並ぶ松濤の佇まいを見ながら、かつて三業地(※)として賑わった、神泉の弘法湯付近、花街・円山町など、街の記憶を辿るコースをおよそ2時間かけて堪能。老若男女、20人弱の幅広い年齢層の人たちが参加し、散策後は交流会を楽しんだ。交流会の飲食代を含み、参加費は2,500円。

歩くことは年齢を問わず誰もが楽しめる平和な行為だ。“しぶコン”は、世界中の人が集まってくる渋谷の街並みが、より美しく洗練されるよう、そして、国際観光都市にふさわしい「おもてなし」を形で表していけるよう、その牽引役を担いたいと、今後も街歩きをはじめ、さまざまなイベントを継続して企画・活動していくとしている。7月30日には初のナイトツアー「路地・小路・坂道巡りと、ビヤガーデン・ツアー」も実施され大いに盛り上がりをみせた。今回はしぶコン代表・玉井美歌男氏に、渋谷の街について、しぶコンの活動について、ガイドツアーの魅力について語っていただいた。

(※)三業地:芸妓置屋、待合、料亭の営業が許可される区域を指す行政用語で、花街とほぼ同義(Wikipediaより)

【インタビュー】渋谷の街を歩いて散策 地元目線のスポット巡りで、街の記憶にアクセス 〜“しぶやコンシェルジュ”の活動〜 1

7月30日に行なわれた、しぶコンナイトツアー「路地・小路・坂道巡りとビアガーデン」のようす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インタビュー

 

  • 玉井さんは渋谷区に30年以上お住まいだそうですが、ご自身の目で渋谷の移り変わりをご覧になってきて、どう感じていらっしゃいますか?

 

はい、私が渋谷で暮らして、約35年になります。

商空間デザインの事務所を経営していました。20年余りの間、神宮前に職住近接しておりましたので、その意味では、渋谷というより、どっぷりと“原宿人”でした。

当時は、原宿からJR渋谷駅まで歩くには、かなりの距離感がありました。楽しい道ではなかったからです。それに引き替え、表参道は洗練されたファッションストリートであり、国民的な憧れの地として、地方から多くの人々が日々集まり、賑わいが絶えませんでした。そんな成熟した表参道から染み出すように、その横丁・キャットストリート(渋谷川の上)に商業を営む人々の視線が集まり始めました。表参道と明治通りの南東部の扇形地に隠田商店街があり、そこを取り巻く静かな住宅街があり、その中を南北に走るコミュニティ道路がある、そこに面するように時代のトレンド・ショップができ始め、徐々に路面商業地へと変り、静かに発展していきました。

原宿・表参道が線から面へと厚みを増していく過程に、明治通りの様変わりがあります。新しい建築物ができ、アパレル系のショップが連なるのには、そんなに長い時間を要しませんでした。リーマンショック以後、店舗やビルの立替や入れ替えはあったものの、ウインドゥショッピングを楽しめる道として歩道の整備もされ、今や、渋谷~原宿・表参道~青山、渋谷~恵比寿~代官山といった個性ある街のゾーンがつながり、歩いて楽しい回遊動線となりました。渋谷の発信をする面的拡大、および質・量共に、密度も上がりました。

 

  • 渋谷の魅力はどんなところにあると思いますか?

 

渋谷の街は、商業地として捉える人が多いと思いますので、その意味で魅力を語れば、日々変化し続けているところです。小さなショップが路面店に並んでいるのが魅力ですが、日々激しい競争をくり返しています。そんな状況だからこそ、勝ち抜くための経営のあり方が問われます。昨日あったお店が、今日はなくなっている・・そんなことも珍しくはないのです。そんな渋谷だからこそ、チャレンジしてみたいともいう人も多いのでしょう。アグレッシブでクリエイティブな感性がいつも求められ、だから働く人も訪れる人もきらきら輝いている。それが渋谷の街の魅力なのです。

渋谷の街は、“万華鏡”です。

もう一つの視点でみると、ダウンタウンを取り巻く周辺に、全く違う個性が存在するところです。
高級住宅地あり、民衆の心のよりどころ・伝統の神社あり、芸術文化の集積地あり、教育・カルチャーの集積地あり、などと、生活に根差した文化の拠点が、渋谷駅から歩いて10分圏内にあります。静かにこれらと向き合う感性があれば、渋谷の街の魅力の奥行きが感じられるはずです。

 

  • 玉井さんが渋谷の街でガイドツアーを始めようと思ったきっかけは何でしょう?

 

原宿人であった私が、10年前に渋谷駅近くに転居しました。洗練され美しい景観のある原宿表参道界隈と、渋谷駅周辺。街の様相の違いに衝撃を受けました。「何かしなければ、街は変わらない!!」。私自身の素朴で切実な思いに駆り立てられ、地域の専門学校に参加を呼びかけてゴミ拾いを実施したり、地域のまちづくり勉強会に参加したりしていくうちに、渋谷の街に強い関心を寄せるようになりました。職能である商空間デザイナーとして街との関係性が高かったこともあり、どんどんはまっていったのです。その間には東京都による“観光まちづくり塾”という講座を修了し、ハードとソフトが融合した新しい概念“観光まちづくり“と出会い、この企画を4年間温めてきました。実績と成果が見える活動はもっと面白いはず・・と思いました。

「国際観光都市渋谷」と謳われるわが街で、遅れているのが“おもてなしの心”を形にすることです。そこで、“しぶやの街の案内人・しぶやコンシェルジュの会”の活動として、ガイドツアーをスタートさせました。もちろん、その他の多様なおもてなしの形を提案していきたいと夢はたくさんありますが、今はその取り組みの第一歩として、ガイドツアーを中心的事業と位置づけています。

 

  • ガイドツアーは、どんな人たちに参加してもらいたいですか?

 

渋谷は、元気な若者の街と言われています。しかし、それは渋谷の一面にすぎません。私のように、この街に住み、街を心から愛し、誇りに感じている人たちが沢山います。その多くは、中高年です。表層的な街の現象や、報道されるイメージで、固定観念をもたれることに甘んじるのではなく、本当の街の姿を浮き彫りにして、それを知ってもらいたいのです。街は、単に消費されていくだけではなく、いろいろな意味でより広く、より多くのものを蓄積していくことが大切です。

国際観光として世界中からのお客様、生活文化の情報発信拠点として、ファッションや音楽や、クリエイティブな夢を持って訪れる人、渋谷サクセスストーリーを求めて力いっぱい頑張ろうという若者たちも大歓迎ですし、感性豊かな熟年層や野次馬根性旺盛な中高年など、しぶコンのツアーには、オールジェネレーション(全世代)の方々の参加を願っていますし、和みのあるおもてなしを目指しています。

 

  • オールジェネレーションとは、すごいですね。ガイドツアーの敢行によって、渋谷は国際都市としての位置づけも踏まえて、さらに懐を大きくし、気持ちのよい街になっていきそうです。これまでに4回開催されたようですが、手応えはいかがですか?

 

渋谷の商業・エンターテインメント、街の記憶、建築、文化芸術などを織り交ぜながら、約2時間のツアーを、4回やってきました。イメージターゲットとするオールジェネレーション層(20代~70代)が参加されています。人ごみと喧騒溢れる渋谷の街中ですが、スローツーリズム・ゆっくりと歩くことで、今まで見えなかったものが、ガイドの説明と共ににわかに身近に感じられ、参加者の皆さんに、違う渋谷を見ていただいています。「渋谷のことを知っているつもりでしたが、こんなところがあったんですね」「楽しかったです」と、参加者の方々が異口同音に言われています。既に、繰り返し参加してくださるファンもつきはじめているところです。

しぶコンは、ツアーだけで散会ではありません。親しく“一期一会”を尊ぶツアー後の交流会も楽しんでいただいています。アグレッシブで華やかな側面をもつため、一見、怖そうで人を寄せ付けないイメージのある渋谷だからこそ、このひと時が重要なんです。お世話をする、しぶコンのメンバーも参加者の皆さんも、飲んでしゃべって、食べて笑って、盛り上がるひと時は、渋谷の人を介して、渋谷に対するイメージチェンジに功を奏しています。

 

  • 車でも自転車でもない“歩く”という行為によって見つかる豊かさ、魅力はどんなところでしょう?

 

ゆっくり街を歩く。ガイドの説明を聴く。街をウォッチすると発見がある。これこそ、その街を“識る・理解する”ことにつながる最大効果です。表層的なイメージとのギャップを知り、街への愛着をより深く覚えてもらうのです。それこそが、まち歩きの醍醐味です。そのギャップが大きい渋谷だからこそ、新しい発見に驚きや感動が一際鮮やかに感じられるのです。

渋谷の街はわかりにくい―? かもしれません。駅から放射状に延びる道は坂道でもあり、その先が見通しにくく複雑に感じられます。まして、放射状の道路をつなぐ、網の目のような路地・小路は、時には人でごった返し、うさん臭ささえ感じさせるところもあります。でもこんなごちゃごちゃ感が、実は渋谷の渋谷らしいところ・・。しぶコンのオリジナル・マップは、通りの名前をしっかりと示しているから、この地図に沿って一度歩いてみると“なるほど・・ね”“納得したね”って言ってもらえると思いますよ。

【2】に続く