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コラム・特集

急増する期間限定カフェの魅力を探る

店内・店頭でのサンプリング、ポスター掲載、ノベルティグッズの配布など、期間限定のカフェを利用したプロモーションを、あちこちで見かけるようになった。ごく普通のカフェが企業の販促のために“ジャック”される場合もあれば、特定の企業が提携あるいは運営するカフェと異業種の企業がコラボレートする形など業態はいろいろ。プロモーションを仕掛ける側も食品、ゲーム、アニメ、音楽、映画、電子機器、各種媒体などの企業や自治体など多岐に渡る。期間限定カフェが流行る理由とは何なのか――。青山、原宿という流行発信地にオープンし、注目を集めている2つのカフェに探った。

コスメとカフェの「REVLON Beauty& Love Museum」

急増する期間限定カフェの魅力を探る

新作リップスティック約300本を使ったハートのオブジェ

コスメとカフェが一体になった空間

「わあ、伸びがいい!」「すごく軽い」――若い女性たちが次々と手に塗って試しているのは、化粧品ブランド・レブロンの大ヒット商品「Photo Ready」シリーズに新しく登場した、4色のムースファンデーション「PhotoReady AirBrush Mousse Makeup」。まるでコスメショップにいるような光景だが、傍のテーブル席では、ドリンクを飲みながらくつろぐ人たちの姿がある。コスメとカフェが一体になったこの空間は、レブロンと東京・青山の「FIAT CAFFÉ」が仕掛けた期間限定カフェ「REVLON Beauty& Love Museum」だ。レブロンの創業80周年を記念し、バレンタインシーズンの2月10日(金)から3月9日(月)までオープンしている。

レブロンは世界で初めて色彩豊かなネールエナメルを作ったニューヨーク発の国際的メイキャップ・ブランド。一方、FIAT CAFFÉはイタリアを代表するカーブランド、フィアットがプロデュースするテーマカフェだ。イベントスペース(BF)、アンテナショップ(1階)、カフェ&レストラン(2階)を併設し、ほぼ毎月違ったテーマで期間限定カフェやイベントを仕掛けている。これを「フィアットのストラテジー(戦略)」と話すのは、フィアットのマーケティング担当者。「FIAT CAFFÉはフィアットのインターナショナルマインドを大切にし、車やフードといったイタリアのカルチャーだけではなく、様々な新しい情報を発信しています。いろいろなコンテンツやイベントがあるので、お客様に行きたい、面白いと思ってもらえる場所になっています」。こうした戦略から、もともとフィアットと“Beauty”“Love”を絡めた企画を練っていたところ、80周年のアニバーサリーを迎えたレブロンと「リンクした」と話す。

新商品が試せるトライアルスペースを設置

「ポップで明るいイメージのフィアットは(他のブランドと)コラボレーションしやすい」と担当者が話すとおり、「REVLON Beauty& Love Museum」でも、フィアットの個性は生かしたまま、グラマーなレブロンワールドが店内いっぱいに広がる。コラボレーションの象徴と言えるのが、黒いボディに白地で「REVLON」と装飾されたレブロン仕様のフィアット。赤と白を基調とした店内とぴったりマッチしているが、これはレブロンのテーマカラーである赤、白、黒を表しているそう。期間中に試乗すると、抽選で計30人にオリジナルグッズがプレゼントされるという特典も嬉しい。

こだわったのはミュージアムとしての見せ方だ。レブロンの化粧品だけでなく、2階には歴代の広告を特別展示。一方で、店内のあちこちにポスターなどでレブロンの新しいブランドアンバサダー、エマ・ストーンとオリヴィア・ワイルドを登場させた。「一般のお客様はレブロンが80年という長い歴史を持つことをあまりご存知ありません。そこで、歴代の広告と新しいアンバサダー、新商品を展示することで、レブロンのロングヒストリーとこれからの未来を表現したかった」と担当者。また、「REVLON Beauty& Love Museum」の「Love」はバレンタインのテーマである愛のメッセージ。新発売のリップ約300本を並べて作ったという大きなハート型オブジェをはじめ、様々なハートが店内のあちこちから「Love」を発信している。

ビジュアルの楽しさはもちろん、新商品を気軽に試せるのがこの「REVLON Beauty& Love Museum」の大きな特長だ。1、2階のトライアルスペースにはムースファンデーション、リップスティック、ジェルアイライナー、アイシャドーなど、この春一押しの商品が並ぶ。カバー力とフィット感が優秀なムースファンデーション「PhotoReady AirBrush Mousse Makeup」、美しい発色とリッチな潤いが特長のリップスティック「ColorBurst Lip Butter」はどちらも3月発売の新商品で、店頭に並ぶ前に試せるのはここだけ。この他、コスメショップの店頭にあるタワー(商品陳列棚)をそのままFIAT CAFFÉに設置。レブロンが展開する約200のアイテムすべてを手に取って試すことができる。

もちろん、カフェならではのオリジナルメニューも展開。たっぷりの野菜を使ったパスタ(数量限定、単品1,500円、ランチセット1,600円)やリンゴのプリン(数量限定、700円)、モロヘイヤとグレープフルーツのグラニータ(700円)などの「ビューティーメニュー」が楽しめる。

相乗効果でターゲット層を取り込む

FIAT CAFFÉの顧客層は周辺のオフィスに通勤する20代から30代の女性が中心。ランチタイムは約70%を女性客が占めるという。一方のレブロンは幅広い世代に支持されつつも、やはり18歳から25歳という若い女性をコアターゲットにしている。「コラボレーションすることで、お互いのターゲットを取り込めるというメリットがあります」とのこと。コラボレートするレブロンの馬場まさみ氏(マーケティング部ブランドマネージャー)も、「FIAT CAFFÉは、感度の高い女性が集まる青山という立地に加え、ターゲット層が重なっている点が非常に魅力的。我々が単独で情報を発信するより、お互いの相乗効果が見込めると考え、プロモーション会場に起用しました」と話す。カフェを利用したプロモーションのメリットとして、立地や雰囲気によっては集まる客の層が絞られ、特定のターゲットに訴求しやすいという点が挙げられるが、今回のケースはまさにそれ。FIAT CAFFÉが発信する様々な情報に敏感な若い女性層と、美容に関心が高いレブロンのファンは共通点が多く、高い相乗効果が見込めるというわけだ。

さらに、レブロンにとってはカフェという空間そのものにも意味があった。「普通の店頭では、ハートのオブジェのように、商品をユニークな形で紹介できるチャンスはありません。また、イベントスペースで行われるような1日限りのプロモーションと違って、こうしたスペースで1カ月もの期間に渡ってプロモーションすることで、我々がこれまでリーチしていなかったようなお客様にも商品に触れていただくいい機会になります。幅広いお客様に我々のブランドが何をしているのか、また、こうしたアクティブな活動をしているブランドだということをきちんとご理解いただけるいいチャンスです」(馬場氏)

「リアル『いいね!』システム」を導入

レブロンの「アクティブ」な側面は、ビジュアルやメニュー展開に現れただけではない。凸版とNTTドコモが開発した「リアル『いいね!』システム」を、他社に先駆けて初めて導入した。これは、店内各所に設置されたリーダーにリストバンドをかざすと、パソコンや携帯を開くことなく、facebookの自分のイベントページに「いいね!」がカウントされるというシステム。レブロンではSNSを活用した情報発信に力を入れており、それが今回の導入に結び付いた。

また、カフェオープン前日の2月9日(木)には、雑誌やウエブ、テレビの各メディア、SNSを通じて呼びかけたファッショニスタブロガーを集めて新商品プレゼンテーションと、“おぐねー”こと小椋ケンイチさんによるメイクデモンストレーションを実施。夜は地下のイベントスペースで土屋アンナスペシャルライブを開き、ブロガー約100人が集まった。

「ウエブサイトのPV数や『いいね!』のカウント数が、今回のプロモーションにどれだけ関心を持ってもらえたかを計るバロメーターになります」と馬場氏。「売上・認知ともに相当の効果を見込んでいます」と自信を覗かせる。

REVLON Beauty& Love Museum
問い合わせ先:FIAT CAFFÉ  TEL03-5771-7662

 

エイベックスとニワンゴがコラボする「創刊30周年記念 銀河英雄伝説カフェ」

急増する期間限定カフェの魅力を探る

アニメのセル画や舞台のポスター、DVD映像などで「銀河英雄伝説」の世界に浸れる店内はすべて撮影自由

スピード感ある2者がタッグ

一方、ふだんのターゲットとは異なる層の取り込みに成功したのが、先月原宿の「TEA ROOM 2525」に展開した「創刊30周年記念 銀河英雄伝説カフェ」(第1弾:1月21日(土)~2月4日(土)、第2弾:3月24日(土)~4月4日(水))だ。プロモーションを仕掛けたのは、音楽、映像配信などを行う総合エンタテインメント企業・エイベックスグループのエイベックス・ライヴ・クリエイティブ株式会社(港区南青山)。TEA ROOM 2525を運営するニワンゴは、20代人口の約6割がユーザーという超人気動画共有サイト「ニコニコ動画」などで知られるIT企業。エンタメとITというスピード感ある2者がタッグを組み、「銀河英雄伝説」(通称:「銀英伝」)の創刊30周年を記念するとともに、エイベックス・ライヴ・クリエイティブが手掛ける舞台「銀河英雄伝説 第二章 自由惑星同盟篇」のPRを図った。

田中芳樹原作の「銀英伝」は販売部数1,500万部というロングセラー小説で、アニメ化もされている。エイベックス・ライヴ・クリエイティブ株式会社の井上智春氏(コンテンツ事業本部 チケットプロモーション部 メディアプロモーション課)は、「カフェで賑やかしをすることで、小説・アニメファンを取り込みたかった」と話す。「銀英伝」の舞台はこれまで3作品が上演されてきたが、その客層は出演する役者のファンなど、圧倒的に女性が多かった。一方、今年30周年を迎えた「銀英伝」の小説・アニメファンは40代以上の男性がメイン。1,500万人以上いるはずのファンを、そのまま舞台へ誘導しようという作戦だ。TEA ROOM 2525を運営するニワンゴとは業務提携の関係にあるが、あくまでTEA ROOM 2525の「立地が良くて大勢の人が集まる」条件に目をつけ、コラボに踏み切った。

「プレミア感」にこだわり、小説・アニメファンに訴求

“コア”なファンに訴求するため、こだわったのは「プレミア感」だ。初公開となるアニメのセル画約15点をはじめ、戦艦模型や「田中芳樹」フィギュアなどを展示した。また、ふだん舞台に馴染みがない40代の男性にもその魅力を知ってもらおうと、実際に舞台で使われた主役の衣装を公開したり、店内のあちこちに舞台のポスターを掲示。何度も足を運んでもらうため、第1弾の前半と後半で展示物の入れ替えも行った。この他、アニメ・舞台のDVD映像を上映したり、主人公ヤン・ウェンリーを演じる河村隆一さんプロデュースのテーマ楽曲をBGMに使うなど、「銀英伝」の世界を体感できる空間を作り上げた。

メニュー開発にも力を入れ、主人公ヤンが紅茶好きであることにちなんだ「ヤンの紅茶」、ヤンの妻フレデリカの得意料理であるという「フレデリカのクレープ」、粉砂糖で自由同盟軍のエンブレムをあしらった「同盟軍パンケーキ」の3品を提供した。「ヤンの紅茶」は、店員が目の前でブランデー入りの角砂糖に火をつけてくれるというパフォーマンス付き。アルコール分を飛ばしてしまえば、酒類を出さないTEA ROOM 2525でも提供でき、しかも客を楽しませることができるという工夫だ。

3階の「ニコニコショップ」には、「銀英伝」のグッズやフィギュア、愛蔵版などを並べた物販コーナーを設置。舞台のチケットも販売し、購入者先着100人には原作者田中芳樹のサイン色紙をプレゼントするという特典も付けた。

こうしたアプローチが小説・アニメファンを引き付け、第1弾の開店中はボリュームゾーンの10代~20代の若い女性だけでなく、40代以上の男性が多数来店。土日は開店待ちの行列ができた。平日でも通常の土日並みの客が来店し、期間中の来店者数は普段の4~5倍にまで増加。チケットを買い求める男性客も多かったという。「思っていた以上に素晴らしい結果が出ました。小説・アニメファンのほとんどは舞台化を知らなかったはずなので、十分な訴求ができた証しではないでしょうか」(井上氏)。

告知方法はオープン直前に行った舞台の制作発表会でのアナウンスと、舞台公式サイトやTEA ROOM 2525のホームページだけ。しかし、ニコニコ動画の登録会員数約2500万人という数を背景に情報の拡散も早かったようだ。実際、公式ツイッターには、来店したファンの感想がリアルタイムで次々に書き込まれていった。ツイッターだけでなく、注文時に手渡したアンケートの回収率も上々。井上氏はこうしたファンの声を第2弾に反映させたいと意気込む。「お客様のリアルな意見が聞けるのがカフェのいいところ。これをきっかけに舞台のファンが増えてほしいですね」

月に2件のペースで展開しノウハウを蓄積

これだけの集客効果は、カフェスペースとメニューを提供したニコニコ本社側にとっても大きな成果。必然的に売上もアップしたが、そこには通常の期間限定カフェでは1,200円で出すセットメニューを各600円の単品で提供するという新しい戦略も盛り込んだ。期待通り、ひとりで3品以上という注文もざらで、セットメニューでの提供を上回る客単価を実現した。カフェメニューの基本であるドリンク、「ヤンの紅茶」にいたっては、“お代わり”を含めて1週間で555杯もの注文があったという。

ところで、TEA ROOM 2525が入るニコニコ本社を原宿に出店させたのは、「ニコニコ動画」の非ユーザー寄りである10代~20代の女性を取り込むのが狙い。今回、40代以上の男性が多数来店したことに対して、ニコニコ事業本部の高橋弘樹氏(事業推進部 店舗運営セクション セクションマネージャ)は、「年代は違っても、新規ユーザーの開拓という意味で大きく成功した」と評価する。

TEA ROOM 2525ではこれまでにも、アーティストやアニメーションとタイアップしたプロモーションを多数実施してきた。コラボレートする企業が店内装飾やPVでの演出を担当し、ニコニコ本社側でカフェメニューを提供。加えて、ニワンゴの強みである動画や生放送、チャンネルを絡めてプロモーションするのが通常の手法だ。現在、こうした期間限定カフェを月に約2件のペースで展開しているため、店員がプラスαのオペレーションに慣れているという特長もある。また、「ニコニコ動画」を使って自らを発信する彼らは、「話好きでコミュニケーション上手」と高橋氏。「銀河英雄伝説カフェ」でも、「ヤンの紅茶」をサービスする際に、独自のアドリブで客を楽しませる店員が人気を集めた。

非ユーザー層を呼び込む“機会創出”に

原宿を足がかりに、ニワンゴが目指すのは「ニコニコ動画」の一般化。TEA ROOM 2525はユーザーの「リアルな交流な場」であると同時に、「ユーザー文化の発信基地」という性質を持つ。期間限定カフェを開くことについても、ニコニコ事業本部の米倉健一郎氏(事業推進部第一プロモーションセクション ニコニコ動画プロモーション担当)は、「これまで全く『ニコニコ動画』に触れたことがなかったような人が訪れる“機会創出”になっている。『ニコニコ動画』にむしろ懐疑的だった層でも、リアルな店舗でメニューを食べ、店員と接することで、ユーザーになってくれる可能性がある」と話す。

「面白ければ、いろいろなことにチャレンジしたい」と米倉氏。数あるコンテンツを持つニコニコ動画を「インフラ」と言い切るニワンゴの姿勢が今後も新しいコラボレートを生み出しそうだ。

創刊30周年記念 銀河英雄伝説カフェ
問い合わせ先:TEA ROOM 2525 TEL03-3796-2627

 

期間限定カフェはここ5、6年で急増した。その背景について、首都圏を中心に旅行、ライフスタイル、コスメなどの要素を融合させたカフェを多数展開し、タイアップ企画も数多く手掛ける株式会社インストアメディア社(横浜市)の久保倉和嘉取締役は、「飲食だけだと売上高に限界があるが、“カフェジャック”なら、既存の店舗を二次利用して、しかも客を飽きさせずに利益を生み出すことができる。また、コラボレートする企業は宣伝費をかけずに済む」と指摘する。そして、こうしたカフェでプロモーションするメリットとして、「大勢の人が集まるカフェは、もやはひとつのメディア。客がその場で見て、触れて、食べて、情報を得られるカフェは、新聞・雑誌・テレビ・ラジオの『4マス媒体』と同じ効果が見込める」と話す。

しかし、期間限定カフェを展開するには、通常のマニュアルにプラスαが加わるため、一般的な店舗が実施するにはなかなか難しい。そのため、チェーン店までは広がっていないのが実情だ。その点、FIAT CAFFÉもTEA ROOM 2525もこれまでの実績があり、独自のノウハウを持っている。「チェーン店をはじめ、いろいろな形態の店が参入しなければ、サービス分野として広がらない」(久保倉氏)との見方もあるが、長引く不況を背景に広告宣伝費を抑えたいという企業はますます増えると思われる。需要の拡大で、期間限定カフェのノウハウを持つ企業や既存店の間でさらにプロモーションの手法が進化していくことも十分に考えられ、今後どのようなカフェが現れるのか、非常に楽しみだ。

(2012年1月31日(火)・2月9日(木) 安江めぐみ)