映画館で見る3Dプロレス、「ワールドプロレスリング3D 第4弾 1.4東京ドーム 2012」の上映が始まった。今回、上映劇場が前回の32館から45館に拡大したほか、各地での舞台挨拶つき上映に先駆けて宮城県名取市のワーナー・マイカル・シネマズ 名取で先行プレミアを行ない、そこに新日本プロレスのヘビー級王座、棚橋弘至選手も登場。上映は3月4日(日)まで。
つながるテレビ局とのコラボレーション
映画館の大きなスクリーンと音響設備を利用して、ドラマや舞台、スポーツ観戦、ライブ中継など映画以外のコンテンツを楽しめるようにする取組みは、AC(オルタナティブ・コンテンツ)、ODS(アザー・デジタル・スタッフ)、など様々な呼称が存在することからもわかるように、代表的といえるビジネスモデルはまだなく、様々な可能性が混沌としている状態といえる。そんな中で異色の輝きを放っているのが、今回紹介する「プロレス」だ。
そもそものきっかけは、2年前に行なわれた蝶野正洋選手のイベント。(株)ワーナー・マイカルでAC企画開発に携わっている小林直也氏によると、蝶野選手本人からの打診を受け、2010年2月、蝶野選手の25周年記念映像上映とトークショーをワーナー・マイカルの2劇場で開催することになった。ワーナー・マイカルでは2010年頃から映画以外のコンテンツの上映を本格的に始めているが、劇場でプロレス関連のイベントを行なったのはシネコン業界でも初のケース。この件をきっかけに、約半年後には「ワールドプロレスリング3D 第1弾」を上映、今回の第4弾まで順調に回を重ねることになる。
ちなみに、先日ワーナー・マイカル・シネマズ板橋ほかで限定上映された「ももドラ momo+dra」も、ここで生まれたテレビ朝日側との縁がきっかけ。アイドルグループ「ももいろクローバーZ」初主演のネットドラマという話題のコンテンツだが、当初予定になかった劇場上映とともに、舞台挨拶などのイベントも実現した。
かつてはテレビのゴールデンタイムで放送され国民的な人気を得ていたプロレス。だが現在、地上波では深夜枠での放送のみ。専門誌も「週刊プロレス」1誌を残して休刊に追い込まれている。そんなプロレスが劇場イベントに手ごたえを感じ、「真夏の祭典」ともいわれる新日本プロレスの大会「G1クライマックス」を映像化したのが今回のシリーズの始まりだ。
「テレビ朝日さんとしても、プロレス人気が伸び悩む中、何とか世間に広めたいという狙いがあったと思います。また、テレビ業界もインターネットやスマートフォンの普及、地デジ化で次のステージへの変革期にあり、何かと出口を探していらっしゃる方も多い。われわれ映画館としても、上映する作品や展開規模は各社ほとんど横並びという中、独自色を出す意味でも、映画以外の作品上映を今後も進めていかなくてはならない。そこにデジタルや3Dという新しい形態が広まるタイミングが重なって、今回、一緒に取り組ませていただくことになりました」(ワーナー・マイカル小林直也氏・以下も同様)。
2010年秋に公開されたシリーズ第1弾は、全14劇場、2日間で1日1回ずつと、かなり限定的な上映だった。「それが大変な好評で、2弾、3弾と続くことになった」と小林氏。今回は先行プレミア上映を含めると全45劇場、10日間(上映時間は未定)。まだまだ爆発的な売れ行きというわけではないが、回を重ねるごとにチケットの売上も伸びてきているという。なにより第1弾が公開されてから1年半しかたっていないことを考えると、順調な展開だ。
プロレスと劇場上映の“相性のよさ”
試写会で実際に作品を見てみると、他のスポーツの中継と同様、さまざまなアングルから撮影されており、客席から見るよりも非常に見やすいというのがひとつ。もちろんスクリーンが大きいことも迫力・見やすさの面でプラスとなる。
そのかわりに気になるのが「どれだけ臨場感が味わえるのか」だが、そこは鮮明な3Dのデジタル映像と5.1chサラウンドのおかげで、画面から汗の匂いが漂ってきそうなほどの生々しさ。選手たちの筋肉や空中技の立体感、リング上で体がぶつかり合う音、前後左右から聞こえる観客の声援まで、まるで会場にいるかのように感じられる。
また、試合はもちろん、入退場シーンや選手インタビュー、ロッカールームの様子、さらには選手&アナのコラボによるオープニング映像(某CMのパロディ)などサービス満点の内容で、プロレスに詳しくない人間にも十分に楽しめる作品に仕上がっていた。
とはいえ、中心となるターゲットはやはりプロレスファンになるだろう。聞いてみると「来ているのはやはりファンの方」との答え。「面白いのは、現役ファンはもちろん、昔見ていたという人が来ることです。多くが小~中学生のころにブームを体験した、30代くらいの世代。昔はよく見ていたが、いつの間にか離れてしまった…という人たちが、近所で見られるというメリットもあり、久々にということで見に来られている。実際私もそうなんですが、これを機に生の観戦にも再び足を運び出したという声も聞いていますし、子どもを連れてきて、子どももファンになった、ということもあるようです」。たしかに子ども、特に男の子にとっては、ヒーローvsヒールの構図など、戦隊モノに通じる魅力がありそう。
年月のうちに観戦から足が遠のいたファンはもちろん、行きたくても行けない地方のファンにとっても、シネコンでの上映はやさしい。「今回も当社の劇場のある大体の都道府県で上映できるように調整させていただいたので、東京ドームに来られなかった地方の方が、北海道でも熊本でも、同じように楽しめます。最近のプロレスは地方巡業が減ってきているので、これはすごくいいことだと思います」。
熱心な固定ファンは相変わらずおり、さらに「昔好きだった」「最近は全然見ていない」「見に行きたくても行けない」潜在的な客層が多くいるというプロレスならではのファン構造が、シネコン展開の成功理由の1つになっているとも言えそうだ。
一方、仕掛けた側のメリットについてはどうだろうか。コンテンツホルダーである新日本プロレス、テレビ朝日側としては、全国のシネコンで上映することでファンの掘り起こしや拡大につながる。一方の劇場側にとっても、先に話に出た独自性はもちろん、「プロレスファン」というこれまでの顧客と重なりにくい層の取り込みにつながる。「非映画コンテンツをきっかけに劇場に来ていただければ、予告編やポスターも見ていただけます。今まで映画館に来なかった人、来るのが億劫だった人も、映像がきれい、音がいいと、劇場のよさに気づいてもらえるかもしれません」。
宣伝方法は今後の課題
今後も、このような客層をいかにして呼び込むか。「ファン通信での告知や、今回のような試写会にスポーツマスコミの方に来てもらうという手もありますが、映画のように宣伝費があるわけではないので、今後も検討する余地があると思います。後から上映を知ったというファンもいらっしゃいますし」と小林氏。とはいえ、劇場窓口という各地の販売チャネルがあることは大きな強み。
また、今回のように豪華な舞台挨拶(全13回)がマスコミに報道されることでも、ファンに情報が届きやすくなる。本来のファンからの評価の声が大きくなれば、プロレスを楽しむ1つの形として十分に定着していくだろう。そして、テレビ局とタッグを組んだ映画以外のコンテンツの展開や、よりバラエティに富んだ劇場の使い方についても、今後いっそう可能性が広がっていくのではないだろうか。
(2012年2月10日(金)大塚泰子)
映画概要
タイトル:ワールドプロレスリング3D 第4弾 1.4東京ドーム2012
上映劇場:全国ワーナー・マイカル・シネマズ42劇場 他
舞台挨拶:全国7劇場で3日間・13回開催
上映期間:2012年3月4日(日)まで
購入方法:WEBサイト及び劇場窓口
報道問合せ先:03-3262-0274(ワーナー・マイカル広報室)
一般問合せ先:ワーナー・マイカル・シネマズ各劇場
参考サイト:ワーナー・マイカル・シネマズ/テレビ朝日
IWGPヘビー級王座 棚橋弘至選手の舞台挨拶スケジュール
2/25(土)16:00~ ワーナー・マイカル・シネマズ板橋
2/27(月)19:00~ ワーナー・マイカル・シネマズ新潟
2/27(月)21:00~ ワーナー・マイカル・シネマズ県央
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