アクアシティお台場を舞台に初の「台コン」
「カンパ~イ!」「それじゃあ、自己紹介からお願いします!」。レインボーブリッジが輝くロマンチックな夜景の窓越しに、店内のあちこちから弾んだ声が上がる。テーブルに座っているのはいずれも2組の若い男女で、異性同士は今日出会ったばかり。いわゆる“合コン”の光景だが、こちらは男女約150人が参加しての大がかりなイベント。地域の飲食店に数百人から数千人単位の男女が集まる大規模な合同コンパ、「街コン」の一コマだ。地域活性化と男女の出会いの場の創出を目的とするこの街コンが今、全国各地で活況を呈して話題となっている。
今回の街コンは、アクアシティお台場の飲食店街が舞台。「台コン」と銘打って、街コンの普及を目指すチェンバーメディア株式会社(新宿区)が主催した。デートスポット・お台場は合コン会場としてうってつけだが、地域活性を掲げる街コンは地域の商店街で行われるのが主流で、こうした大型の商業施設で開催されるのは珍しい。都内有数の観光地であるお台場も、平日はどうしても来街者が減る。そこで、アクアシティお台場を運営する三菱地所リテールマネジメント株式会社が、来訪を促す仕掛けとして街コンの集客力に目をつけ、チェンバーメディアに開催を依頼した。最終目標は、周辺のデックス東京ビーチ、ヴィーナスフォートも参画しての3施設合同街コンの開催。今回はいわば、その「前哨戦」だ。
チェンバーメディア株式会社事業推進部部長の高橋功氏は、「お台場は企業が多く、勤め帰りの独身の男女が集まるには絶好の場。また、全国的に有名な場所なので、独身者を結婚に結び付ける街コンの力を全国に広めるよい広報になる」と話す。アクセスの都合もあってか、参加者の大半は周辺企業に勤める社会人がほとんど。都内で開催される街コンは通常、千葉、埼玉から参加する人も珍しくないので、こうした点も「台コン」の特徴だろう。
やや特異なケースとはいえ、仕組みは一般的な街コンとほぼ同じ。参加証代わりのリストバンドをもらい、2人1組で参加店舗をハシゴしながら異性と出会う。制限時間内なら、参加料だけで食べ放題、飲み放題だ。ただし、「台コン」の場合、参加店が4店舗と少なかったこともあり、参加者が回れる店を主催者側が指定した1店舗目とくじ引きで決める2店舗目に限定。男性が計5回のテーブル移動を行うという工夫で、出会いの数を増やした。店舗へ移動するロスが少ないことで、かえって異性と話す時間が増えた様子。お台場の美しい夜景も手伝ってか、そこかしこで楽しそうな交流が生まれ、中にはさっそく携帯のメルアドを交換する男女の姿も見受けられた。
合コンとグルメが楽しめ、異性と気軽に出会える場
「台コン」の参加資格は、通常の街コンと同じで「20歳以上」。ボリュームゾーンも、街コンとほぼ変わらず、男性は36歳、女性は34歳となっている。街コンのターゲットである20代後半から30代後半の未婚率を2010年の国勢調査でみると、25歳~29歳は71・1%(男)、59・9%(女)、30歳~34歳は46・5%(男)、33・3%(女)、35歳~39歳は34・6%(男)、22・4%(女)。ボリュームゾーンの男性30代後半と女性30代前半では、3人に1人が独身というのが現状だ。その理由はどんなところにあるのか。大手結婚紹介サイト、youbrideが会員に実施したアンケート(2009年)によると、「出会いがない」「理想の相手に出会えていない」という回答が1位と2位を独占。これだけ情報過多の時代になりながら、男女ともに「出会い」が少ないという実態が浮かび上がった。数百人から数千人が参加する街コンは、そんな現代の独身男女にとって、格好の出会いの場を提供しているといえる。
参加者の声を聞いてみた。地元の豊洲勤務という女性(30代)は、流行りの街コンに興味を覚えての参加。「周りで合コンがないので、出会いを求めて参加しました。街コンはいろいろなお店で食べたり飲んだりできるので、出会いがなくても楽しめる」と話す。ただし、参加費4,000円(男性は6,500円)については、「3,000円なら何度か来ようと思うけれど、4,000円はつまらなかったらもう来ないかな」と、金銭感覚はシビア。別の女性(20代後半)は、「友達と飲みに行けば同じぐらいお金がかかるけれど、街コンならたくさんの人と出会える」と前向きだ。ちなみに、街コンの参加費は男性が6,000円前後、女性は3,000円~4,000円が一般的。また、友人に誘われて下北沢から参加したという男性(30代)は、下北沢の大型街コン、「シモキタラバーズ」にも参加したことがあるそう。街コンの良さを、「バーと違って、自然な形でいろいろな人と出会えるところ」と話す。どうやら、出会いとグルメが両方楽しめ、しかも肩肘張らずに異性と出会える点が好評のようだ。
高橋氏は街コンが人気の理由を、「震災後、独身の男女が拠り所を求める風潮があることが大きい」と指摘。さらに、「一定のスタイルが決まっている合コンに比べ、街コンはお店を選ぶのも、合席になった人を振り切るのも自由。そのフリースタイルの感覚が、自分が好きな時に出入りできるソーシャルメディア全盛の時代にマッチしているのでは」と推測する。
「福コン」をきっかけに全国で急増
エンターテインメントと出会いの場の創出をほどよく融合させ、参加者から大きな支持を集めている街コン。リピーターも多く、受付開始から数日で定員が埋まる人気街コンもあると聞く。話を聞いた「台コン」参加者の誰もが街コンが盛り上がっていることを知っていたので、口コミやネット上の情報などで広がっている現状が伺える。
現在、全国30都道府県以上で約300近い開催事例があるという街コンはそもそも、栃木県宇都宮市で2004年に初めて開催された「宮コン」が発祥。空き店舗が目立つようになった地元商店街に活気を取り戻そうと、地元の有志が主催した。その後、「宮コン」を参考に各地で街コンが開催されるようになったが、東日本大震災の影響でいったん休止状態へ。それが、震災直後の7月に被災地の福島で「福コン」が行われたことがマスコミで大きく報道され、これをきっかけに全国区のイベントへと急激に広がっていった。
回を重ねるごとに規模を拡大している街コンも多く、「宮コン」の場合、第1回目の参加人数は約170人、参加店舗は4店だったのが、今年3月の第37回目は参加人数が約3,000人、参加店舗は48店舗へと、大幅に規模を拡大している。「宮コン」を手本に、店舗オーナーやクリエイターらが立ち上げた「シモキタラバーズ」では、2011年4月の初回は参加人数が約260人、参加店舗が7店だったのが、今年2月の5回目は約1,000人が参加、店舗数は22店に増えている。また、街コンは企画・運営にボランティアを活用するのが一般的。自分たちの地元で開きたいという熱意を持った社会人の参加がほとんどで、実際にノウハウを持ち帰って街コンを実現させた例もよくあるそうだ。
広告宣伝費をかけずにPRできるツール
参加者にとっては出会いの場だが、主催する側にとっては地域活性化のツール。参加店舗にとって、街コンはどんなメリットがあるのか。まずはその運営方法だが、主催サイドが店舗の座席を一律いくらで買い上げるのが通常の方式。集めた参加費から諸経費などを差し引いた金額が、席数に応じて分配される。1席の相場は3,000円~3,500円で、20席を提供すれば、6万円が収益になる計算だ。利益を上げるため、街コン用のメニューを提供するなどして工夫する店舗もある。滞留時間が短い街コンは、メニュー数を限定したり、セルフサービス方式が一般的で、ふだんのサービスより効率化が図れるのも利点だ。さらに、休日の昼や夕方に街コンを行えば、通常は閉店しているアイドリングタイムが活用できる。その良い例が、横浜の官庁街、関内で開催されている「濱コン」。休日に街から人がいなくなる場所をあえて会場とすることで、参加店舗の利益に結びつけた。「広告宣伝費をかけずに店のPRができるため、一度参加した店舗からは概ね好評です。『街コン以外でお客さんが来てくれるようになった』という声も聞いています」と高橋氏。
「台コン」に参加したカフェ&ピザ・パスタ「TO THE HERBS」のマネージャー、和田直樹氏は、「初回なので“試し”として参加しました。(大人向けの)当店の雰囲気に合った方たちが来てくださったので、良い宣伝になります。街コンは今話題のイベントなので、お台場とアクアシティ双方の活性化につながるのでは」と話す。
最大の席数(76席)を提供したのは、無国籍料理レストラン「KING OF THE PIRATES」。同店の広報を担当する江角早由里氏は、「これだけの人数が入ってくれて手応えを感じます。ふだんはお台場の企業に勤める方や近所のファミリーのご利用が多いですが、『台コン』はこうした人たち以外にも当店のことを知ってもらうきっかけになります。来店して食べていただくところまで持っていけるツールはなかなかないので、今後継続するなら、ぜひ参加したい。もうすぐダイバーシティ東京プラザが開業するので、その波に乗って“お台場が盛り上がっている感”が出るのでは」と期待を込める。
先の下北沢から参加した男性は、「ふだんはお台場に来ないけれど、今日出会った人と付き合うことになれば、思い出の場所としてデートの候補地になる」と話す。「台コン」をきっかけに、店を気に入った人たちだけでなく、「台コン」で成立したカップルの再訪もありえるだろう。
ユニークな形態・企画が続々誕生
街コンは地域活性化という目的上、地域の商工会議所・商工会や商店街、住民有志が構成する実行委員会が主催するのが主流。しかし、全国規模で盛り上がっているだけに、イベント事業者やパーティ事業者などの参戦も相次ぐ。昨年末にはフリーペーパーの「ぱど」の子会社「クーパ」が、企業の広告収入も視野に、チケット販売代行などの業務を本格化した。
「台コン」を主催したチェンバーメディアの場合は、街コンの情報サイトである「まちコンポータル」(http://www.machicom.jp/)を運営するほか、ノウハウの提供やプロデュースも手掛ける。同社が母体とする事業は、商工会議所と連携しての中小企業の課題解決やIT環境の整備。街コン関連事業は新規参入というより、商工会議所が実施している婚活支援事業のサポートとして始まった。「ここ数年、全国の自治体や商工会議所が少子化対策として婚活支援を行っています。商工会議所に関しては、全国514の事業所のうち、100以上で実施している状況。ただし、地方の婚活イベントは継続するに連れて参加者の顔ぶれが同じになってしまうなどの弱点があるので、新しい企画として街コンをご提案させていただきました」(高橋氏)。
「宮コン」から8年が経過した現在、各街コンが独自の工夫を凝らして参加者の満足度を高めている。例えば、カップル成立特典(「シモキタラバーズ」)、チケットのスーパー早割(「福コン」)、特別宿泊プラン(「潟コン」/新潟・長岡、「前コン」/前橋)、早く来た参加者による「早コン」(「高コン」/高崎)などだ。また、新たな形態・企画が生まれているのも最近の傾向。高田馬場の第3回「馬場コン」は街コン史上初、「血液型マッチング」をテーマに実施。参加者に血液型がわかるアイテムを身につけてもらい、血液型を会話の糸口に盛り上がってもらおうというもの。また、「濱コン」は店舗で開催する従来のスタイルとは別に、昨年、横浜港・大さん橋でフライト・パフォーマンスや花火ショーを楽しむスペシャルイベントを「横浜線香花火大会」と共同開催。さらに、今年のゴールデンウィーク期間中は、地元球団、横浜DeNAベイスターズの試合を観戦するコラボ企画を用意した。また、特急の利用促進と着地型観光に力を入れる西武鉄道は、これまでもさまざまなユニークイベントを開催してきたが、今年6月、近畿日本ツーリスト株式会社が同社の特急レッドアロー号を貸し切ってのお見合いツアー、「~愛を探す列車の旅~THE鉄コン!in秩父」を実施する。各号車を年齢・趣味で分けたり、恋愛パワースポットとして人気の秩父神社で恋愛成就の特別祈祷をしてもらえるなど、盛りだくさんの企画が鉄道ファンのみならず、人気を集めそうだ。
高橋氏は街コンの現状を見据えつつ、その将来をこう予測する。「特に都内では1駅に1つの街コンがあるという過当競争が始まって、参加者の取り合いになっている。ただ最寄駅が違う、店舗が違うというのでは必ず飽きられてしまうので、主催者が何を売りにするのか、企画を改善していくことが今問われています。そういった試行錯誤の中で、今後はただ食べ歩き飲み歩きをするという形態から、趣味や嗜好によって集まれる、カテゴリー別の街コンが出てくるのでは。それに応じて、大規模なものより、小規模のものが多発してくると想定しています。街コンを一過性のイベントで終わらせないためにも、各主催者が趣向を凝らす必要がある」
チェンバーメディアでは、出会いから結婚までのマーケットを担える事業展開を構築中。幸せな結婚生活には結婚前から社会や家庭で必要とされるマナーを知っておく必要があると、今年5月からこうした男女間のルールを習得するための検定試験をスタートさせ、街コンと合わせて運用していく予定だ。また、高齢者を対象にした“シルバー街コン”を企画中で、今後、積極的に自治体に働きかけていくという。
求められる“スタンダード”の制度化
全国でさまざまな街コンが開催されるようになった一方、開催時間や客層のズレから商店街の利益に結びつかない、開催日以外の集客には至らない、参加者の迷惑行為など、多くの課題が生まれているのも事実。悪質なイベント事業者が介入して店舗への分配金を不当に安くするなど、商店街の活性化とはほど遠い事例もあるそうだ。「地元の理解を得るためにも、マナーを共有化できるルールづくりが必要。また、地域活性化事業を謳う以上は、どれぐらいのレベルなら地域を潤わすことができるのかといったところまで制度化していかなくてはならない。いろいろな課題について意見し合あい、街コンの“スタンダード”を制度化できるような主催者の協議会を作りたい」(高橋氏)
課題はあるにせよ、ライフスタイルや地域性を生かしたさまざまな展開が予想される街コンは、地域経済の起爆剤として大きな可能性を秘めている。チェンバーメディアのようなポータルサイト運営会社や人気街コンの実行委員会へ、地方からの問い合わせが相次いでいる状況だ。中心街に空き店舗が目立つ地方都市の現状はどこも深刻で、自治体や住民が危機感を抱いているためだろう。そこに参加費だけで運営できる街コンの登場は画期的だった。しかし、今後、開催地が増えるにつれ、淘汰される街コンも当然出てくるはず。一過性のブームに終わらせないためには、参加者と参加店舗・地域の双方が確実に成果を得られる工夫が問われている。
台コンData 日時:2012年4月13日(金) 19:00~22:00 会場:アクアシティお台場の飲食店(無国籍料理レストラン「KING OF THE PIRATES」、カフェ&ピザ・パスタ「TO THE HERBS」、創作料理「ダイニングテーブルATU190」、イタリアンレストラン「イタメシヤラ・パウザ」) 参加費:男性 6,500円、女性 4,000円 参加条件:20歳以上の男女(独身者限定) 主催・運営:チェンバーメディア株式会社 開催協力:三菱地所リテールマネジメント株式会社 、(株)東京臨海ホールディングス 問い合わせ:電話03-5321-9541(チェンバーメディア株式会社 まちコン運営事務局) |
(2012年4月13日(金) 安江めぐみ)