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コラム・特集

第14回 国際バラとガーデニングショウ International Roses & Gardening Show 2012

100万輪のバラが西武ドームを埋め尽くす、日本初にして国内最大級のバラとガーデニングの祭典。第14回目を迎えた今回は8日間で237,672人を動員。これまでの来場者数は累計332万人を突破した(3,327,342人)。人気の秘訣は毎回、趣向を凝らした内容で来場者の期待を裏切らないこと。今年は人気デザイナー、キャス・キッドソンの庭が出現し、「ベルサイユのばら」に関連して元宝塚トップスターもステージに登場するなど、特に話題性が高い内容となった。企画運営者とコンテスト審査員のインタビューを紹介。

国際バラとガーデニングショウ実行委員会 江坂篤祐 氏

来場者が主役の会場づくりを徹底

第14回 国際バラとガーデニングショウ International Roses & Gardening Show 2012

キャス・キッドソンのコッツウォルズの庭を再現したシンボルガーデン

日本には花見など、日常的に花を愛でる文化があるので、わざわざお金を払い、エネルギーを使ってまで来ていただけるようなショウを創り上げるためにはどうしたらいいのか、毎回工夫を凝らしています。今回は、「お客様が主人公になって楽しめるショウ」にしたいと考えました。西武ドームという異空間に突然現れた、「わたしだけの空間」と思っていただければ一番うれしいです。

まず、お客様を迎え入れるのは、会場入り口付近に展 示したローズアベニューです。メインテーマが「魅惑のバラできれいになる」なので、お客様が「バラってきれいね」とシンプルに言える、その人を包み込むような空間を作ることを徹底しました。大勢の女性に立ち寄っていただけるよう、女性のバラ育種家、河本純子さんにお願いし、「天使の舞い降りるローズアベ ニュー」というタイトルで、彩り・造作も含めて作っていただきました。ローズアベニューのデザイン・造作をされたのは、ローズグロワーの大野耕生さんです。

また、シンボルガーデンは日本でも人気の高い英国人デザイナー、キャス・キッドソンさんに因んだ庭です。彼女はブランドデザイナーですが、英国の園芸文化の中で育った方であり、イングランド中央部のコッツウォルズに、デザインのインスピレーションを得られるような庭を造って住んでいる。そこで、「真似事ではなく、イギリスの価値観に基づいた本物のイングリッシュガーデンを作ります」ということをアピールするために、英国人のガーデンデザイナー、マーク・チャップマンさんと一緒に英国を訪ねて協力をお願いしたところ、この企画に乗っていただけた。彼女の意見を聞いて打ち合わせをしながら、シンボルガーデンを作っていきました。また、彼女にとっては、そのプロダクトが自分のバラ。そこで、人それぞれに自分のバラがあるということを幅広く紹介し、本物のバラと合わせて楽しんでいただこうと、シンボルガーデンの隣にショップを設けました。

特別展示の「ベルサイユのばら」に関しては、以前から、このテーマで何かできたら楽しいだろうと考えていました。今回、たまたま、メイアン社が劇画の『ベルサイユのばら』に捧げるために作出したバラの発表会とタイミングが重なったことから、このショウでも大きく取り上げさせていただきました。また、“ベルサイユのばら”というと、池田理代子さんの劇画だけでなく、宝塚の「ベルばら」として、タカラジェンヌやセリフをイメージされる方が多い。そこで、お客様に喜んでいただくため、「ベルばら」に出演した元宝塚スターの方たちにもご登場いただきました。

バラ好きな方たちは花の背景にある、人と花の関係に酔うものです。そして、自分がいいと思っているバラや庭の話を、プロから発信してほしいと思っている。そういう意味で、本展はバラや庭が好きな人たちが集まって情 報交換をする、サロンのような役割を果たしています。そこで、今回は展示だけでなく、トークショーやガーデントークなど、人が話をするコーナーをできる限りたくさん盛り込みました。

初の「お楽しみ販売会」を実施
また、毎年、お客様から、会場で使用された花を譲ってもらえないかという問い合わせをよくいただきます。そこで、お客様のご要望に応えるため、最終日の約30分間、試験的に「お楽しみ販売会」を開催することにしました。主催者展示のガーデナーだけでなく、コンテストガーデンのガーデナーからも希望者を募り、「私の好きな花の株をお分けします」という気持ちで、10品種程度を販売していただきます。

こうしたショウでは、花の開花調整が一番重要です。過去にはうまくいかず、つぼみばかりの時もありましたが、最近はガーデナーのみなさんの努力で開花調整をしていただいています。展示だけでなく、会場で咲いているバラと同じ状態のバラを買って持ち帰りたい、というお客様が多いので、販売・生産者の方も、温室に入れるなどの工夫をし、会場でバラを咲かせています。

会期の延長でメリットも
今回は従来の6日間開催から2日伸び、会期が8日間となった関係で、前半後半の中日にメンテナンスの日を設けましたが、ガーデナーがもう一度自分の庭を見て、作品をグレードアップさせるような時間になったと思います。前半はいろいろな方向を向いていたのが、花も葉も上に向き直り、一番よい見ごろになりまし た。また、ガーデンマーケットのブースは前半だけ、あるいは後半だけの出展という方もいます。会期を分けたことで、より多くの出展社がブースを出すことができました。

新規出展社の開拓へ取り組む
1日の客単価は平日と土日ではまったく違います。土日はバラ周辺のことも含めてお楽しみとしていらっしゃるので、お土産を買われる方が多く、単価は低い。しかし、平日は花そのものの価値観で商品を買われるので、高価なものでも購入されていきます。とくに、初日は一番売上がいい。今回は土日が2回あり、土日の入りは例年より若干少なめですが、ウィークデー初日の月曜日に大勢のお客様が見えました。

マーケットのブースも徐々に変化していて、以前はガーデングッズを幅広く扱っていただけでしたが、最近は外国製の園芸用品など、より品質の高い商品を扱う出展社にも出ていただけるようになりました。本展の評判を聞いてぜひ出展したいという方もいれば、こちらからテーマに沿った出展社にお声掛けすることもあります。まだ本展のことを知らない方もたくさんいらっしゃると思うので、質の高い商品 をアピールしたいという出展社の開拓にはまだ余地があります。また、実績作りのために、屋外にもテーマガーデンやマルシェを造るという仕掛けをしていますが、屋外は植物が一番輝いて見えるし、お客様が最後に何か買われていくので、売上が非常によいと好評です。外は天候に左右される分、ハンディはありますが、自分のブースの植物をよりよく見せるような工夫ができる出展社を開拓していきたいと思っています。

これだけのお客様が入ると、滞留時間としてはぎりぎりのところです。ただ、本展はバラとガーデニングショウなので、人を押しのけるのではなく、譲り合って見るような方ばかり。そこで、基本的にはお客様に花の香りを嗅いで楽しんでもらい、その代わり、優しく接してくださいというのがモットーです。また、車椅子のお客様に対応するため、足場のスロープが極力ないようにしています。ただし、「足で踏みしめる」「坂道を上る」といった楽しみは本来、ガーデニングの中にある大切な要素なので、車椅子の方にはサポートがつくなどして、今後はより本物の庭を楽しめるショウにしていきたいですね。

ガーデニングの事例が見られる場所
バラは大きく育つし、ガーデニングには自分の庭が必要なので、ガーデニング層というと、やはり一戸建ての家に住むような年代の50~60代が中心になります。バラ好きの消費者はプロのガーデナーと違って、バラが咲く時期に他の草花の開花も合わせるものですが、本展ではバラだけでなく、バラを引き立ててくれるような別の草花も開花した状態で販売されている。今一緒に咲いていれば、来年も同じ時期に咲くので、この会場で組み合わせができるようになっています。毎年、会場を回っていると、こうしたバラと相性のよい草花を目当てにいらっしゃる方も多いようです。
本展のよいところは、バラとガーデンという要素がひとつになっていること。ガーデンデザイナーが、「こう作ったらバラが引き立つ」というガーデニングの事例をたくさん見せています。日本ではホームセンターなどで花を買いますが、ヨーロッパには「ナーサリー(種苗業者)」があって、どんな花が咲くのか、どの花と組み合わせたらいいのかを見せるためのモデルガーデンを持っている。草花を種苗から育てる・収穫する・料理するといった楽しみがあり、日本とはレベルが全く違います。本展はヨーロッパのように草花を楽しめる人たちを育てていく、日本最大級・最上級の役割を果たしていると思います。
ガーデンデザイナーの登竜門
本展に来て感動し、ガーデンデザイナーを目指す人も多いです。そういう人たちがコンテストで入賞・優勝しています。ガーデントークをしていると、一般の方たちに交じって、コンテストに出展したデザイナーがメモをとっていたりする。コンテストに出品するようなガーデナーはふだんは別の仕事をしていて、ガーデナーとして独立しているわけではないので、本展が自分の力を試せる「登竜門」の役割を果たしています。また、プロのガーデナーや造園家であっても、施主の求めに応じて庭を造っているので、コンテストなら、自分がイメージする庭を作ることができます。
主催者展示のガーデナーは最近、ガーデンにバラを意識して取り入れるようになりました。そして、ガーデンが美しく見えると、来場者もそこに使われているバラが買いたくなる。なので、施行者が販売ブースと今以上にコミュニケーションをとり、事前に展示で使用するバラを告知するなど、連携していく必要があると思 います。
(ガーデンデザイナー、バラとガーデニングコンテスト ガーデン部門 審査委員 神田隆 氏)

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新規来場者の獲得につながる企画を投入
第14回 国際バラとガーデニングショウ International Roses & Gardening Show 2012

8日間で237,672万人を動員した

本展は90年代のイングリッシュガーデンブームを背景に、西武ドームのオープニングイベントとして誕生した、国内最大級のバラとガーデニングの祭典。「新しいライフスタイルの提案」を目的に、バラとガーデニングが持つ魅力を多角的に紹介するショウとして、海外からも高い評価を得ている。

その特長は規模だけでなく、内容が盛りだくさんなこと。「わざわざお金を払って見てもらうショウ」(江坂氏)とするために、展示・イベント・物販を同様に充実させている。今回もドームのキャパシティを生かして大がかりな展示を行うとともに、例年にも増してイベントの数を増やし、来場者の期待に応えるショウとなった。とくに、若い女性からも人気があるデザイナー、キャス・キッドソンに因んだシンボルガーデンとショップや、宝塚ファンにもアピールできる特別企画「ベルサイユのばら」を投入したことは、新しい来場者層の獲得にもつながったのではないだろうか。また、例年、来場者から強い要望があった展示物の草花販売会を実現して、ファンサービスを徹底。リピーターを含めて来場者の満足度を高めた。今回は「試験的」な実施だったが、継続されれば、新しい目玉イベントになり、会期中のリピーター増加も期待できそうだ。

車椅子の利用者も楽しめる会場作り

内容の充実ぶりもさることながら、圧倒されたのは来場者の数だ。西武球場へ向かう西武線車内と西武球場前駅の構内はすでに人でいっぱい。大半が60代以上の女性で、同性の知人と連れ立って来ている人がほとんどだった。会場内もかなりの混雑で、ローズアベニューは中で人が前に進めなくなるほど。シンボルガーデンへの入場は、12時前に30~40分待ちの長い行列ができた。近隣のリピーターの中には、混雑が緩和される夕方を目指してやってくる人もいたようだ。

とはいえ、例年1日平均3万人以上が来場するイベントだけに、運営サイドの対応も万全。会場内に配備された大勢のスタッフが来場者を誘導し、待ち合わせの場所を決めてから行動するように呼びかけるなど、細やかな声掛けもあった。インフォメーションは入口付近とその反対側の2カ所に設置。観客席の一部を休憩スペースとして開放し、観客席と会場を往復する階段を上り専用と下り専用に分けて安全面に配慮していた。

年配者が多いイベントでは特にバリヤフリーの視点が求められるが、本展では車椅子でショウを楽しんでいる人も大勢見受けられた。車椅子の利用者がドームのスロープを上り下りせずに入退場できるよう、通常は使用していない1階の入場口を関係者入り口として開放し、スタッフが車椅子の使用者に積極的に声掛けして誘導したという。また、関係者入り口やイベント会場となったローズテラスの観客席出入口など、会場のあちこちに段差をなくす工夫が施こされていた。

バラエティ豊かな159ブースが出展

来場者数に比例して盛況だったのが、159のブースが出展したガーデンマーケット。例年ブースを出す出展社が多く、その声掛けで新規出展社も順調に増えているという。バラエティに富んだラインナップで、苗木や園芸用品だけでなく、バラがモチーフの雑貨や衣料品、化粧品、健康器具など、中高年の女性をターゲットにしたさまざまな商品が並ぶ。中には、毛皮や高級家具、パッケージ旅行など、高額商品を販売するブースもあった。

最もにぎわったのは、やはり苗木や切り花を売るブース。本展を訪れた来場者のほとんどが、バラの苗木一鉢を購入していくそうだ。価格帯は数百円から数千円で、一鉢3,500円前後がメイン。あるブースのスタッフによると、展示に使用されたバラを買いにくる客が多いが、展示にどのバラが使われるかは事前に知らされないので、その年の売れ筋はその場にならないとわからないとのことだった。神田氏の話にもあったが、販売ブースと主催者展示が連携を深めれば、経済効果はさらに大きくなりそうだ。

見て楽しめるだけでなく、提案型の展示やプロのガーデントークなどを盛り込んだ本展は、ヨーロッパの園芸文化を日本へ浸透させる場として先端を担ってきた。また、若手ガーデナーの登竜門になるコンテストを開催するなど、業界の活性化にも貢献してきた。今後は来場者層の拡大と販売ブースのいっそうのレベルアップが課題だという。しかし、話題性の高い企画やファンの要望に応える企画で新旧の来場者にアピールし、質の高い出展社を多数集めることができた今回のショウは、ステップアップへの足掛かりとして十分な成果を上げた。

(2012年5月17日(木) 安江めぐみ)

【会場構成】
〈ローズアベニュー〉
■天使の舞い降りるローズアベニュー
〈バラできれいになる〉
■美の創造者たち~育種家の世界~
■はじめよう! ローズライフ
・バラの香りできれいを磨く/公益社団法人日本アロマ環境協会(AEAJ)
・バラの香り研究所/蓬田バラの香り研究所
・新しいバラの風~「自分のバラ」に出会う~/玉置一裕(ローズブランドコレクション雑誌「New Roses」編集長)
・憧れのイングリッシュローズを育てる/マイケル・マリオット(デビッド・オースチン・ロージズ)
・フランス流バラで女性を美しく/ローラン・ボーニッシュ(フラワーアーティスト)
・F&Gローズで和と洋のライフスタイルを楽しむ!/小山内健(ローズソムリエ)
■特別展示「ベルサイユのばら」
〈シンボル/ドラマチックガーデン〉
■シンボルガーデン「キャス・キッドソンの秘密の庭~インスピレーションの生まれる庭~」
■ドラマチックガーデン~驚きと楽しさの庭~
・妖精が作るねむり姫の庭~The Garden of Sleeping Beauty~/吉谷桂子
・ロマンティックなミックスボーダーガーデン~シュラブやツリー、草花を使って~/ケイ山田
・夢の始まる場所 ドゥリムトン/マリー(ユ・メ・ミ ファクトリー)
・Pure Heart in the Garden ~トリックであなたの笑顔が咲く庭~/清水守也・きよみ
・三上真史のカフェガーデン~ BLUE for You ブルー・フォー・ユー ~
■特別企画 子どもと楽しむ花育・バラ育/深野俊幸(フラワーデザイナー)
■ステージ:NHK おかあさんといっしょ「ポコポッテイトとあ・そ・ぼ!」
〈もっとバラを楽しむ〉
■日本ばら会
■日本ばら切花協会コーナー
■バラとガーデニングコンテスト
■ガーデニングマーケット
■ドゥリムトンマルシェエリア
【ステージ・イベント】
■ローズテラス(PDF:ローズテラススケジュールを参照)
■ガーデントーク(PDF:ガーデントークスケジュールを参照)
■スペシャルイベント
・ローズフォトデー~ワンコイン(500円)でシャッターチャンス!~
・スペシャルマーケット~お楽しみ販売会~

 

名称 第14回 国際バラとガーデニングショウ International Roses & Gardening Show 2012
会期 2012年5月12日~2012年5月20日
会場 西武ドーム
主催 国際バラとガーデニングショウ組織委員会
(毎日新聞社、NHK、スポーツニッポン新聞社)
URL http://www.bara21.jp
企画運営 NHKエデュケーショナル、NHKアート、西武鉄道
入場料 当日券:大人(中学生以上) 2,000円
ターゲット ガーデン愛好家を中心に幅広く一般
会場広さ 13,000㎡
展示・出展規模 ガーデニングマーケット:159社276小間
バラとガーデニングコンテスト:応募総数4,921点
動員数 237,672人(8日間)