早朝の日本各地をにぎわせた「金環日食」。多くの都市圏で見ることができたため、学校が登校時間をずらしたり、住宅街でも都心でもひらけたところに人々が集まって空を見上げる姿が見られるなど、かつてない景色が繰り広げられた。ただ早朝ということもあってか、はたまた天候に左右されやすいということもあってか、当日の大々的なイベントはそこまで多く見受けられなかったようだ。そんな中で一風変わったイベントを開催し話題を集めたのが、習志野市で行なわれた観察会&金婚式お祝いセレモニー「習志野きんこんかん記念日」。
県の観光物産協会が各自治体にイベント開催を依頼
千葉県では173年ぶりの金環日食の観測、県内での観測は比較的条件がよいということを受け、千葉の観光をとりまとめている千葉県観光物産協会が各自治体に“日食に関連させたイベント”の開催を依頼していた。それを受けた習志野市の担当者が手を挙げて企画したのがこのイベントだ。千葉県内ではほかにも全部で26の会場で独自のイベントが開催され、「金環日食 あなたの想いをタイムカプセルに」「海から見よう!金環日食」など個性的なイベントが出そろった(くわしくはこちらを参照)。
「(千葉でよく見えるといっても)太陽なので、どこでも見えます。イベントにするには何か変わった企画でないと面白くないと考えました」と今回のイベントの企画に至った経緯を教えてくれたのは習志野市市民経済部商工振興課観光係 係長の鵜沢慈彦さん。理由としては、まず「金環食」と「金婚式」の音が似ているというのがひとつ。そして太陽がリング状に見えるということで、リング=指環=結婚とリンクさせることを考えたが、せっかく金のリングなのだから、新婚の結婚式より金婚式がより適しているのではないかと、今年1年で結婚より50周年を迎える夫婦の記念イベントと組み合わせる案を固めたのだという。
イベント中で観光資源をしっかりとPR
独自に考えついた例のないイベントなだけに、話題も集中。会場となった茜浜緑地は住宅街とは少々離れた海岸沿いにある公園だが、市内を中心に予想以上に多くの人が集まり、いつもは静かな駐車場は朝から満車に。また、「みのもんたの朝ズバッ!」(TBS)「とくダネ!」(フジ)「やじうまワイド」(テレビ朝日)など東京からも多くのマスコミが訪れて、当日の様子を取材した。取材の多さは、おそらく企画のユニークさから来ているものだろう。
もうひとつ、鵜沢さんがこのイベントを企画した理由がある。それは観光地としての会場PR。「茜浜緑地は市の端に位置しているので、内陸側に住んでいるひとにはあまり知られていないんです。でも本当は夜景が美しく、富士山もキレイにみえ、国交省が指定する富士見百景にも選ばれている場所。今回はこの場所をもっと知ってもらいたいと、PRも兼ねた企画となりました」。すぐ近くの秋津地区から夫婦で来ていた来場者は、「地元の新聞を見て来ました。このようなイベントに来るのは初めてですが、とても楽しんでいます」と話していた。
当日の会場には約1,500人あまりの来場者が訪れ、7時から配布予定だった観測グラス200個は1家族1つというルールをつくってもすぐに終了してしまった。また、会場では金環食のリングにあやかった焼きドーナツとにんじんジュースなどを組み合わせた「金環朝食」のセットも販売されており、多くの人がこれを買い求めていた。このドーナツは習志野の名所「バラ園」にちなみ、中にはめずらしい「バラ」味もあった。またジュースになった「にんじん」は昔からの習志野の名産品の1つだ。
天体ショーと祝賀セレモニーの組み合わせに感動
最大日食の時間が近づくと、曇の切れ目から太陽が顔をのぞかせるたびにどよめきが起こり、一瞬の隙間から完璧なリングが見えた瞬間には、歓声や拍手、口笛が起こり、独特の高揚感が会場を包み込んだ。リングが消え、次第に太陽のまぶしさと会場の落ち着きが戻り始めてきた7:40頃から、金婚式を祝うセレモニーがスタート。習志野市の宮本泰介市長が祝福の言葉と記念品を贈呈したほか、バイオリンデュオによる生演奏が披露され、参加した19組のカップルは途中途中で日食を見上げながらも楽しんでいた様子だ。
「こんなふうにイベントにこられるのも、日食が見られるのも、2人ともに元気であってこそ」「宇宙の天体ショーと私たちの記念日が同じ。このめぐり合わせがとてもうれしい」「いい記念日となり、開催してくれたみなさんに感謝している」「いい思い出となった。子や孫のためにも、そして市のためにも、できることをやっていきたい」セレモニー参加者からは様々なコメントが飛び出した。残念ながら朝の始業前ということでセレモニー後半まで残っている市民は多くなかったが、残っていた市民に協力を仰いで退場するカップルにフラワーシャワーが贈られると、参加者の顔は大きくほころんでいた。
科学的な説明を行なって楽しむイベントもあれば、大規模なライブコンサートなどを実施する例もあるが、アイデアひとつで幅広い年齢層の来場者を集め、様々なPRにつなげるイベントにできるのだと実感。感動的な天体ショーもさることながら、ちょっとした“見立て”や“ダジャレ”を居合わせた全員で楽しむという企画の面白さも、来場者の満足に大きく寄与していたようだ。
(2012年5月21日(月)大塚泰子)
【開催概要】
名称:~習志野きんこんかん記念日~習志野市金環日食鑑賞会 金婚式お祝いセレモニー
開催日:2012年5月21日(月) 7:00~8:30
会場:茜浜緑地(千葉県習志野市)
趣旨・目的:茜浜緑地を開催地として、東京湾が一望できる綺麗な緑地があることを市内外の方に広くPR する
【内容】
①金環日食鑑賞会
⇒当日、先着で200個の観賞用グラスをプレゼント
②金環朝食セット販売
⇒習志野市ふるさと産品業者会より、金環朝食セット<焼ドーナツ、にんじんジュース等>の販売
③スペシャル企画「金婚式お祝いセレモニー」
⇒日食最大の時刻が過ぎ、リングが消えたあとに開始。今年1年で金婚式(結婚50周年)を迎える夫婦25組50名(市民のみ、要申込)を対象にセレモニーを実施した。応募があったのは19組38名。