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コラム・特集

【インタビュー】被災地でのキッチンカー炊き出しボランティア~イベント企画会社 (有)鶴金社中による被災地支援~

各種イベントの企画、制作、運営を手掛け、キッチンカーをはじめイベント用機材も数多く所有する(有)鶴金社中が、3月11日(金)の東日本大震災発生直後である3月23日(水)に岩手県大船渡で炊き出しのボランティアを行なった。

その後、4月に宮城県石巻市、女川町、5月に宮城県山元町、南三陸町、6月には宮城県東松島市と続けて炊き出しボランティアを実施。余震もまだ続くなか、高齢の被災者を中心とした避難所での炊き出しは大変喜ばれるものとなった。

自社の持つ機材を使って、いち早く現地に飛んだ(有)鶴金社中とその社員の友人らで構成された炊き出しチーム。実際現地ではどのようにボランティアを行なったのか。金子ひろし代表取締役社長と、4月以降のボランティアの中心メンバーとして現地に行った三浦美智子氏に話しを聞いた。

 

【インタビュー】被災地でのキッチンカー炊き出しボランティア~イベント企画会社 (有)鶴金社中による被災地支援~

5月27日に行なわれた宮城県南三陸の歌津中学校でのバーベキュー給食のようす(「ブログ:鶴金社中の活動日記」より)

【インタビュー】被災地でのキッチンカー炊き出しボランティア~イベント企画会社 (有)鶴金社中による被災地支援~

6月30日、7月1日に行なわれた「おなかいっぱいプロジェクト 南三陸町」でのようす(「ブログ:鶴金社中の活動日記」より)

 

 

――まずは、震災後すぐに現地に飛んだフットワークの良さに驚きました。

 

金子「本当は阪神大震災のときに行きたかったのですが、結局行くことができませんでした。それが自分のなかでずっと引っかかっていた。今回、早く行動に起こせたのは非常によかったと思います」

 

――3月は岩手ということですが、その理由は?

 

金子「私の兄の知り合いが岩手県庁に勤めていて、その関係で大船渡市役所を紹介していただいたのがきっかけでした。心配だったガソリンの調達のめどもついたので、岩手に行くことができましたが、どの避難所に行けばいいのかというのは現地に行ってみないとわからない状態。初日に行くところだけはあたりをつけましたが、2日目以降は市役所で詳細を聞いて、自分たちで見きわめるしかありませんでした。結局最終的には、大船渡では4か所で5回の炊き出しを行なうことができました」

 

――次が4月で、今度は石巻まで行かれたそうですね。

 

三浦「ここも初日に行く場所だけある程度決めて、次の日からは現地で探しました。避難所とひと口に言ってもいろいろで、大きな場所は連日炊き出しが来ていて、メニューも様々なものが提供されているいっぽう、小さなところはその反対だったり。またあるところでは、避難所にいる人だけは炊き出しを食べられるものの、その近所の、半壊した自分の家に避難している人には避難所側が一切提供しないということもあったそうで、結局、並びの列を別々にして対応したようです。こういった場所もあれば、集まった人全員に区別なく配るところもあって、内情はいろいろでした」

 

――炊き出しメンバーはどのように集めたのでしょうか。

 

三浦「メンバーは、こちらの社員と現地にいる友人、社長の友人関係が中心で、3月に行ったときは7人でした。5月はもっと増えて14、15人。地元のボランティアとも協力しながら進めていきました」

 

――日常の業務とのバランスが難しいと思いますが。

 

三浦「それは確かに心苦しいところです。最近は復興支援イベントが増えて、炊き出しに行ったことを話すとそれでつながりができたりということもありますが、ボランティアを始めてしまうと、なかなか日常業務とのバランスを取るのは難しいですね」

 

――複数回にわたって様々な被災地に現地に行って、今お感じになることは?

 

三浦「炊き出しで何をお出しするかがだんだんと難しくなってきています。いつまでも豚汁やカレーライスというわけにもいきませんし、お年寄りが非常に多いので、どんなメニューが喜ばれるのかというのは非常に悩むところでした。自分に置き換えて考えると、やはりいくつかのメニューからある程度選べるようになっているだけでだいぶ違うのではないか。こちらも余裕が出てくれば、今後はそういうことも考えていきたいと思っています

 

――継続的なサポートが求められていますが、そのためにどのようなことが重要でしょうか

 

三浦「これからは、費用の面でもっとボランティアに行きやすい仕組み作りが重要になってくるでしょう。キッチンカーなどの備品を使うのは問題ありませんが、食材、器、その他諸経費などを考えると簡単なことではありません。会社に残っている人の負担もありますし」

 

――具体的な方策はお考えですか?

 

三浦「実は、埼玉県にあったとある会社が倒産してしまい、UFOキャッチャーなどに使うぬいぐるみがさばけないまま倉庫に残ってしまいました。今度その倉庫を建て替えられることになって、困った大家さんがこちらに譲ってくれたんです。そのぬいぐるみに、こちらで作った「いつでも心はひとつ!東北魂」「Pray for Japan」というメッセージの入ったキーホルダーをつけていろいろなところで販売しようという計画があります。その売り上げを、炊き出しのための費用にあてられればと思っています」

 

――他の企業と協力しながらというかたちもありそうですね。

 

三浦「いっしょに何かやりたいという企業があれば大歓迎です。様々なところと協力し、それぞれの得意分野を出し合うだけで全然違ってくると思います。一番いいのは大きな企業が冠になってくれること。そうすればこちらも仕事として行けますし、それが継続性にもつながってくるでしょう。例えば味の素が自社の社員を新人教育も兼ねてボランティアに行かせたそうですが、このように自社社員を使うもよし、自社の製品を提供するもよし、費用の面でサポートしてくれるもよし。何らかのかたちで支援してくれるようになれば理想的です。復興までにはまだ大変な時間がかかります。今後も継続的な支援が求められるなか、こうした動きは重要になってくると思います」

【インタビュー】被災地でのキッチンカー炊き出しボランティア~イベント企画会社 (有)鶴金社中による被災地支援~

キーホルダーやぬいぐるみに、新しく作った「いつでも心はひとつ!東北魂」キーホルダー(中央)をつけて販売し、それを活動費用にあてる計画もある

【インタビュー】被災地でのキッチンカー炊き出しボランティア~イベント企画会社 (有)鶴金社中による被災地支援~

話を伺った(有)鶴金社中の金子ひろし代表取締役(写真右)と三浦美智子氏。普段は各種イベントの企画、制作、運営を手掛ける

 

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<ボランティア活動のスケジュール>

日程 開催都市 会場 メニュー 提供数
3月 23日(水) 岩手県大船渡市 大船渡地区公民館 豚丼、味噌汁 1,100食
24日(木) リアスセンター 豚汁、デザート、ポテト 350食
盛小学校 豚汁、炊き込みご飯、デザート、ポテト、おひたし 250食
25日(金) 熊野神社 カレーライス、豚汁、デザート 250食
リアスホール シチュー、肉じゃが 300食
4月 11日(月) 宮城県石巻市 ビッグバン クリームシチュー、バターライス、桃まん 500食
宮城県牡鹿郡女川町 女川町第一保育所、勤労青少年センター 炊き込みご飯、豚汁、桃まん 400食
12日(火) 宮城県牡鹿郡女川町 女川町第一保育所、勤労青少年センター カレーライス、クリームシチュー、お汁粉、フルーツ、たくあん 400食
宮城県石巻市 石巻市立飯野川中学校、飯野川小学校 カレーライス、味噌汁、コロッケ、桃まん、フルーツ、たくあん 400食
5月 26日(木) 宮城県亘理郡山元町 山元町立坂元中学校 バーベキュー 200食
27日(金) 宮城県本吉郡南三陸町 歌津中学校 バーベキュー 250食
6月 25日(土) 宮城県東松島市 ふれあい北公園 焼肉定食、焼魚定食、肉野菜定食、メンチカツ定食、デザート 150食
26日(日) 小野中央ミニ公園 焼肉定食、焼魚定食、肉野菜定食、メンチカツ定食、デザート 130食
27日(月) 小野風の子公園 焼肉定食、焼魚定食、肉野菜定食、メンチカツ定食、デザート 120食

※以降も継続的に実施中。詳しい活動状況は同社のブログを参照 「鶴金社中の活動日記」

 

<まとめ>

今回紹介した鶴金社中の取り組みで賞賛されるべきは、まずフットワークの良さ。3月11日の震災直後、すでに23日には最初の炊き出しを行なっている。これは、金子社長自身の言葉にもあるように、阪神大震災時にボランティアに行けなかったことが背景にあるが、やはりキッチンカーをはじめ、炊き出しに必要なものを自前で持っていたことや、ガソリンが早めに調達できたことが大きい。メンバーがすぐに集められたというのもすぐに動けた大きな要因だろう。

阪神大震災(1995年)、新潟県中越沖地震(2007年)など、近年、世界的レベルでみても非常に大きな地震を私たちは経験しているわけだが、今回の東日本大震災の特徴は被害の範囲が非常に広大であること。その分、復興までに長い時間がかかってしまうため、支援もまた継続性が求められる。

報道量が少なくなっていくにつれて関心が薄くなるのに加え、ボランティアをする側も日々の生活、仕事がどうしても優先するため、行きたくても行けなくなってくるというのが現状だ(実際、鶴金社中も3月、4月は各イベントが中止になったためにスムーズに現地入りできた面もある)。そこで、三浦氏の言うように、大きな企業がバックアップをして、仕事として行けるような仕組みができれば、特に費用の面を考えると動きやすくなるだろう。また被災者側も、こうした災害時につきものである負い目のようなものを感じる必要がなくなる。

ちなみに、周知のとおりあらゆる企業で被災地支援の動きがあるが、義捐金や自社製品の寄付といったもののほかに、現地で直接的に支援する動きも各方面で活発だ。

例えば、富士フイルム(株)では、「写真救済プロジェクト」と銘打ち、津波で汚れた写真の洗浄指導を現地で実施したほか、写真店と協力し、被災者からの写真洗浄に対する問い合わせに直接対応している。セブン銀行は、ATMを積んだトラックによる移動ATMを実施。銀行が流されて現金が下ろせず困っている被災者の助けとなった。

イベント業界でいえば、今回の(有)鶴金社中のような事例のほか、バルーンアートでおなじみのエミリーズ・バルーン(株)が「復興 ”絆”がんばろう日本!」と印刷されたバルーンをバルーンアーティストやイベント主催者に無料配布。被災地である大船渡市や、被災者が避難をしている群馬県太田市などで行なわれた励ます会で同社提供のバルーンが使われた。

それぞれが得意分野で直接的、間接的に被災地支援を行なっているわけだが、イベント業界には、炊き出しや現地でのレクリエーション目的のイベントなどについて、機材やノウハウを持っている企業は数多く、いざ動き出せば大きく貢献できそうだ。

(鈴木隆文)

※文章中の敬称略