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コラム・特集

東日本大震災と東京のアートシーンの取り組み

東日本大震災が起きてから、あらゆる世界で被災地をサポートしようという動きが広まっているのは周知のとおり。それぞれが得意としている方法で支援の輪を今も広げているが、アート界も例外ではない。

3331 Arts Chiyodaの取り組み

東日本大震災と東京のアートシーンの取り組み

今回は、2つの取り組みを紹介したい。まずは3331 Arts Chiyodaの取り組み。この施設は、廃校になった中学校を再利用し、現代アートを中心とした様々なジャンルのアーティストの発信の場として数多くの展覧会、イベントなどを行なっている。

その3331 Arts Chiyodaでは、震災直後の3月16日(水)、早くも緊急オープンミーティング「今、私達にできること」を開催。同施設をベースに日ごろ活動をしている入居団体、アーティストや一般の来場者60名ほどが集まり、話し合いの場を設けた。

そこでの話し合いの内容を受け、趣旨に賛同したアーティストたちが集まって、自身の作品を販売。集まった義援金を被災地へ寄付するという企画が「いま、わたしになにができるのか?-3331から考える」だった。

「この震災に対して自分でも何かしたいという人の思いを受け止め、そしてそれを伝えるために3331 Arts Chiyodaとして何ができるのかということで、まずは場を提供することから始めました。すぐに作品が売れるということはないかもしれませんが、出品者同士の横のつながりや、来場者とのコミュニケーションを通じて次のアクションが芽生えたり、今後も続けていくために何が必要かということを確認するための意見交換ができたらと思っています」(3331 Arts Chiyoda統括ディレクター中村政人氏)

およそ70組超のアーティストが参加。各々が作品を持ち寄って販売したほか、来場者に見せながら会場で作品を制作するアーティストも。作品自体もペイント、彫刻、写真などバラエティに富んでいた。

こうした作品の販売とは別に、阪神大震災時のアート界の動きを具体的事例を交えながら紹介したトークイベント、ワークショップ、上映会、音楽ライブなど様々なコンテンツを実施。統一性という面は確かに乏しかったが、中村氏の言うように、とにかく何かできないかという強い思いを持ったアーティストがさっと集まり、それぞれが何かを発信するという機動性は十分発揮されたのではないだろうか。

そんななかで特に注目を集めていたのが日比野克彦氏とチームヒビノによる「ハートマークビューイング」。布や古着を持ち寄ってそれでハートマークを作り、1つひとつのハートマークをつなぎ合わせて大きなフラッグを作って被災地に持って行こうという取り組みだ。誰もが参加できて気持ちがひとつになるものということでこうした企画になったわけだが、もともとは日比野氏が昨年のサッカーW杯の際に行なった「マッチフラッグプロジェクト」がベースなっているという。会場では、次々と来場者が参加し、各々が個性的なハートマークを作っていた。

森美術館の取り組み

東日本大震災と東京のアートシーンの取り組み

もうひとつ紹介するのが森美術館の取り組み。こちらはオノ・ヨーコ氏、奈良美智氏、草間彌生氏といった世界的に活躍するアーティスト約20組の作品を展示、販売し、その売り上げを寄付するというチャリティセールを開催した。中心価格帯は10万円~50万円で、2日間のみの開催ながら約860万円を売り上げた。しかもそのほとんどは初日に売れてしまったというほど注目度が高く、時間的な制約もあって大きなPRができなかったにも関わらずこの数字というのは大成功だろう。

作品は、こちらも絵画、彫刻、ドローイング、版画、写真など様々。会場がさほど広くないことや、アーティストに呼びかけてから時間があまりなく、用意できる作品にも限りがあったそうだが、大きな成果はあったようだ。

今回の企画を実施することになったきっかけは、震災直後の3月26日(土)に行なわれたシンポジウムだった。もともとこの日と翌日は、六本木の街中が現代アートに埋め尽くされる「六本木アートナイト」が開催される予定だったが、震災の影響で中止。そこで、同イベント内で実施予定だったシンポジウムの内容を急遽変更し、「Art for LIFE: 東北太平洋沖地震被災者支援プログラム」と題したトークイベントおよびチャリティセールを開催した。このなかで「いま、アートの力でできること」についての話し合いで出たものをきっかけに今回の企画となった。

また、主催は違うものの、同じ4月16日(土)・17日(日)の2日間、六本木ヒルズ内大屋根プラザにて、1,000円から参加できる「Artists’ Action for JAPAN」というイベントも行なわれた。これは、アーティストがその場で制作した作品を1点につき1,000円で購入できるというもの。収益のすべては被災地に送られるチャリティ企画で、これもアートの力で被災地を応援しようという趣旨という点では3331Arts Chiyodaや森美術館の取り組みと同じものだ。

いずれも共通するのはスピード感

いずれの企画にも共通するのがスピード感、機動性という部分。素早く行動を起こすことが大切なのは言うまでもないが、3月中にオープンな場で話し合いを持ち、4月にはイベントを実施するというスピーディな動きがあったからこそ、多くの人を集められたのではないだろうか。何かしたいという人々の思いの受け皿としては、やはり早いタイミングで何かをするということが大切だ。

今回紹介したものは作品を販売したり、会場内で募金活動を行ない、それを義援金として被災地に送るというものだったが、今後は、サポートのかたちも変わってくるだろう。現地で求められるものも刻々と変化している。すでに多くのアーティストが現地に行って、それぞれの方法でボランティアを行なっている。3331 Arts Chiyodaでは、復興のためのアートアクションを起こしたいアーティストに、無料でメインギャラリーの一角を提供するという試みも7月10日まで行われた。時間が経つにつれて、アートに求められることも多くなってくるだろう。アートにしかできないこととは何か。今後も新たなアクションが期待される。

 

★両イベントの詳細はこちら
3331 Arts Chiyoda「今、私達にできること」 (会員向け記事)
森美術館「東日本大震災チャリティ・セール」(会員向け記事)

(2011年4月3日(日)・17日(日) 鈴木隆文)