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主催者 | 国立科学博物館、モンゴル科学アカデミー古生物学センター、読売新聞社 | |
URL | http://daikyoryu.com/ | |
概要 | 良質な化石が見つかることで知られるモンゴル・ゴビ砂漠で発掘された実物化石を中心に、展示標本を100点以上集めて展示した企画展。中でも今回、巨大な恐竜の全身骨格が本物の化石で組み立てられており、大変貴重なものを見ることができる機会となっている。展示は白亜紀前期から末期へと時代の流れに沿いながら、発掘されたエリアごとにまとめられており、見つかった化石から考えられる恐竜たちの生態や暮していた環境の多様性など、さまざまな研究結果を知ることができる。また最近特に関心が高まっている恐竜の成長にスポットを当て、卵から幼体、成体へと大きくなるにつれて恐竜にどのような形態変化が起きていたのか、実際の化石を通じて学べる場にもなっている。 |
後援 | 文部科学省、モンゴル国大使館 |
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協賛 | 三越伊勢丹、ダイワボウ情報システム |
特別協力 | 林原自然科学博物館 |
入場料 | 一般・大学生 : 1,500 円(1,300円) 小・中・高校生 : 600 円(500円) ※( )内は前売および各20名様以上の団体料金 |
チケット販売窓口 | ローソンチケット(Lコード=33335)、 チケットぴあ(Pコード=988-426) ほか主要プレイガイド。 |
開催期間 | 102日間 |
展示エリア紹介
①プロローグ:恐竜発掘地としてのゴビ
アンドリュース調査隊の遠征による恐竜化石発見以来、保存状態の良い化石が多数見つかることで知れ渡ることになったゴビ砂漠。プロローグでは、その調査隊に関する資料や、ゴビ砂漠で見つかった、特に状態の良い化石などを展示し、今日でも研究者を惹きつけるその魅力を紹介。
②恐竜のいた時代
恐竜が生息していた時代を、年表式で紹介。それに今回展示されている化石の発掘地がどの時代に該当するものなのかを併記して、このあとに展示されている化石がいつ頃、どこで見つかったものなのかが一目でわかるようになっている。
③プシッタコサウルスたちの時代 (白亜紀前期 約1億1,000万年前)
ゴビの北東部の茶色い丘という意味の発掘地「フレンドゥフ」で見つかった化石を展示。現在では草原地帯に白亜紀前期の地層が露出している地域だが、恐竜たちが生きていた時代は、湿潤な気候で湖沼が広がっていたと考えられている。この展示エリアでは、原始的な角竜のなかまプシッタコサウルスや、オルニソミモサウルス類(ダチョウ型恐竜)の中で最も原始的なハルピミムスの全身骨格などを見ることができる。
④ガルディミムスたちの時代 (白亜紀後期 約9,000万年前)
ゴビ東部の「バイシンツァフ」(「家の形の崖」という意味のモンゴル語)という、河川の周辺で堆積した地層が広がっている地域で発見された同時代の化石を紹介。この白亜紀後期では、ガルディミムスなど歯を失い植物食に適応したオルニソミムス類や、鳥脚類の中でも、より効率的な植物食への適応を見せるハドロサウルス類など、その後に多様化する系統の初期の分類群が生まれているのが特徴。保存状態の良いそれらの全身骨格を中心に展示を展開。
⑤ヴェロキラプトルとプロトケラトプスたちの時代(白亜紀後期 約8,000万年前)
ゴビ中央部の「豊かな台地」という意味の「ツグリキンシレ」から見つかった化石を展示。この地層は主に砂丘の堆積物からできていて、乾燥した環境であり、全身が関節した状態で見つかる脊椎動物化石も多い。また、今回展示するヴェロキラプトルの化石の胃の中には、最後に食べたエサの骨まで化石になって残っているなど、恐竜の行動や生態について貴重な情報が得られる化石が見つかっている。
⑥タルボサウルスとサウロロフスたちの時代(白亜紀後期 約7,000万年前)
タルボサウルスや、植物食恐竜のサウロロフス、オピストコエリカウディアなど、大型恐竜が登場する時代を紹介。ゴビ砂漠の西に位置する「待ち伏せの崖」という意味の名で呼ばれる「ブギンツァフ」で発掘された大型恐竜の全身骨格が並ぶ。同時代の北アメリカでは、サウロロフスと近い種類である10メートルを超える恐竜の化石が産出することから、アジアと北アメリカが地続きであった可能性が考えられる。
⑦大量絶滅の時代
約6,600万年前に直径10キロメートルほどの小天体が、メキシコのユカタン半島に衝突したことで、多くの生物が急速に絶滅した。カメ、ワニなどの爬虫類、中生代哺乳類、鳥類など、大量絶滅を免れたものたちを紹介しながら、白亜紀末に起きた状況などを解説する。
⑧恐竜研究室
ゴビ砂漠で発見された化石は、まず化石のクリーニングを行った後、研究され、その成果が発表される。ここでは近年特に注目される、恐竜の成長についての研究を中心に紹介。恐竜のたまごのほか、プロトケラトプスやタルボサウルスの幼年から成体の化石を一堂に展示し、成長による形態変化を解き明かす。
発見や驚きにあふれ、恐竜への関心が高まる展示内容
この「大恐竜展」では来場者に発見や驚き、感動を与え、さらにそこから関心を呼び覚ますような見せ方や仕組み・仕掛けが巧みに散りばめられている。まず、入り口を入ってすぐのプロローグでは、ゴビ砂漠における化石発掘の先駆者となるアンドリュース調査隊の紹介が展開される。最初に発掘の背景や使われた道具、当時の様子を追うことで、ゴビ砂漠が恐竜化石の有数の産地となったことに対する理解を深めつつ、見ている側は当時の発掘隊の一員になったような気分にもなる。それにより、自然と化石への関心や期待が高まり、多くの来場者が次の展示エリアから広がる恐竜の世界に、より一層惹きつけられることが予想できる。
その後は恐竜の年代と化石の産地に沿う形で、本格的な化石の展示が始まる。これまでの化石を展示するイベントでは都合上、レプリカを多用することが多い中、今回展示されている化石のうち、約90%が実物化石となっていることがこの展示の大きなポイントとなっている。実物化石にはどこかオーラのような迫力があり、来場者もきっと心を揺さぶられるのではないだろうか。また天井にも届きそうな大きさの全身骨格は、恐竜が大地を踏みしめている姿を連想させるものであり、見ている側は想像力を多いに刺激された。
特にタルボサウルスとサウロロフスの全身骨格が並んで展示されているところは非常に迫力があり、見る者を圧倒する。恐竜の大きさは本や図鑑で「体長10メートル」などと知ることができても、やはり実際に組み上がった化石を見上げ、その大きさを体感することで得られる感動は、この会場ならではのものである。また、恐竜の全身だけでなく、鋭い牙や巨体を支えた足の骨など、身体の各パーツにもスポットライトを当て、それらにも細かな解説がなされており、最新の研究成果から、恐竜がどのような暮らしや動きをしていたのかを知ることができるようになっていた。
そして、最後の展示エリアでは、良質な化石が見つかるゴビ砂漠の特徴を活かし、「恐竜の成長」という観点を展示に盛り込んでいる。そこでは恐竜の卵や巣の化石のほか、タルボサウルスの幼年から成体までの頭骨が比較展示されており、恐竜がどのような過程を経て成長していたのかをうかがい知ることができる、これまでにない機会となっていた。また会期中、不定期ではあるが、林原自然科学博物館の協力を得て、化石技師による「クリーニング」という作業が会場内で実演されるとのこと。クリーニングとは大きな砂岩の中に埋まった化石の周りにある余分な砂などを取り除き、化石をきれいにする作業であり、滅多に見る機会のない作業であると同時に、その繊細さ・緻密さに見ている側も思わず息を飲む。
音声ガイドにタブレット端末を活用
そして、来場者に恐竜への知識をより深めてもらうためのツールに音声ガイドがあるのだが、ここにも一つの工夫を取り入れている。これまでの音声ガイドの多くはイヤホンを耳につけて、流れる説明を聞くだけの形のものが多い。しかし、この展示では音声ガイドの利用を申し込むと、タブレット端末が手渡される。そして利用者は場内を回りながら指定されたポイントで端末を操ると、音声での説明のほか、今目の前にある化石の更なるズーム画像や骨格成長を動的に紹介したものなど、展示の内容を視覚的にもより詳しく理解できるようになっている。さらにこの音声ガイドは大人用と子供用が準備されていて、子供用には「発掘隊からの指令」としてクイズを解いて楽しむコンテンツが入っており、恐竜に対する理解や関心を呼び起こすにはうってつけの仕掛けであった。
棚いっぱいの恐竜グッズや読みごたえのある図録など充実した物販
そして展示を見終えて恐竜に関する関心が高まった来場者を迎えるのは、恐竜グッズで埋め尽くされた物販コーナーである。「大恐竜展」オリジナルグッズのほか、さまざまなおもちゃやパズル、文房具など、ありとあらゆる恐竜グッズがコーナーいっぱいに陳列されており、その量にも驚かされる。また大変読みごたえのある図録も見逃せない。オールカラーで写真やイラストがふんだんに使われており、図録を開けば、その場で展示の臨場感が思い起こされるような出来栄えだ。ここでは恐竜ファンはもちろん、あまり恐竜について詳しくなかった人でも楽しく買い物できるだろう。
「大恐竜展」は入り口から出口まで充実した恐竜の世界を満喫できる展覧会となっていた。大人でも十分に心を動かされる内容であったが、特に子供にとっては自然科学に関心を持ち、豊かな感性を育むよい機会になるとだろう。
(2013年10月25日(金)松本みずほ)